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プロローグ
風が唸り、血の匂いが充満していた。
目を開けば、そこには地獄の様な光景が広がっているのが分かる。
「きゃあああああ!」
鋭利な刃物が突き立てられた腹部からは、真っ赤な血が噴き出すように流れている。
「大丈夫!しっかりして!」
相手がまだ何かしてこないかと警戒しながら、倒れそうになるその身体をしっかりと支えた。
地に転がる二つの懐中電灯。
「守れて良かった……」
自分は刺されていると言うのに、こんな状況でも私の事を想ってくれるのは本当に凄い。
刺したその子は青ざめた顔で走って逃げて行く。
「もう喋らないで……」
刃物を引き抜くと更に出血が酷くなると聞いた事があったので、そのまま地に寝かせる。
「ひ、人を呼んでくるからほんの少しだけ待ってて……。す、すぐに戻ってくるから、絶対に動かないで!」
振るえる手をおさえながら洞窟を出ると、外は真っ暗だった。
降り続ける雨は上がらないけど傘をさしている余裕さえなく、とにかく助けを呼ぶために走り続けた。
こんな時間に海岸沿いの道など誰も居ないのは当然だったが、それでも関係なく人を探した。
こんな事になってしまったのは全て私のせいなのだから、責任を感じずにはいられなかったのだと思う。
「お願いだから生きていて欲しい」と神に祈りながら全力で走っていると、一〇〇メートル程先に灯が見えてくる。
どうやら喫茶店の様だったが客はおらず、店主が一人で後片付けをしている。
「すいません……」
ドアベルの音に気が付いた彼は私の方を見る。
「どうしたんだい、そんなに濡れて……。
申し訳ないけど、ラストオーダーは終わってしまったんだ。
また別の日に来てくれるかい?」
こんなにもずぶ濡れで走って来店してくる客が何処にいるんだと思う所はあったけど、今そんな事はどうでも良い。
店の外を指さす。
「いえ、そうではなく……そこの浜の所で人が刺されたんです。
急いで救急車と警察を呼んでいただけますか?」
凄く驚いた様子だったけど、私の話をすぐに理解してくれた。
「わ、分かった。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと、彼は店の奥へ入っていった。
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