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第十三話 友人との下校
「また明日、学校でね」
帰り道、いつもの交差点で立ち止まる。
「うん、また……。
二人とも気をつけて帰ってね」
信号が青になる。
「大丈夫だよ、家もすぐそこなんだし……」
颯太は私の頭に手を置くと、髪をクシャッとして笑った。
「あーもう、やめてってば……」
照れくさくはあったけど、何故かそうされる事が嫌ではない。
「誠も、じゃあな~」
「俺はついでかよ……」
麻衣ちゃんはこのやり取りを見てずっとクスクスと笑っている。
横断歩道を渡り、振り向いて颯太と麻衣ちゃんに手を振る。
二人は私達に手を振り返すと、そのまま歩道を歩いて帰っていった。
「本当に仲の良い兄妹だよね……」
彼といつも一緒に居られる麻衣ちゃんが何だか羨ましいと思ってしまう。
「何言ってんだよ……。
どう見たって颯太は涼香が好きじゃないか?」
「え?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「誠こそ何言ってるの?
どうしたらそんな風に見える?」
本当にそうだったら嬉しいけど、彼が私を好きになってくれるなんて、そんな事があるはずがない……。
「どう見たってアレは……」
その言葉を遮って私は否定した。
「確かに私達は仲が良いけれど、友達の一人ってだけだよ」
今は四人で仲良く遊んでいるのが楽しいのだ。
変な勘違いで空回りして友達関係を壊すのは嫌だ。
「まぁ、涼香がそう言うなら俺はそれで良いけど……」
まったく、変に気を使わなくていいのに。
「ありがとう……」
両親の離婚後、母とこの町に引っ越してきた私にはなかなか友達が出来ず、クラスでもかなり浮いていたと思う。
上履きが隠されたり、教科書がゴミ箱に捨てられている事も頻繁にあった。
そんないじめはどんどんとエスカレートし、気が付けば対人恐怖によって人とあまり話せなくなっていた。
休み時間には、いつも一人でトイレの個室にこもり、クラスメイトから隠れる様に姿を消した。
本当は学校に行きたくないという気持ちでいっぱいだったけど、離婚して大変だった母にそんな相談をする事はできない。
心配をかけない為には何が何でも学校に行かなくてはならなかった。
「我が校はいじめゼロ」と言い続けた教師サイドは見てみぬふりをし、隠ぺいした。
上から「問題を大事にするな」と言われている担任の立場上そうせざるを得なかったのかも知れないし、もしかすると私が大袈裟に感じているだけでコレはいじめではなく、遊びの延長だったのかもしれない。
親に迷惑をかけまいと誰にも相談しなかったので大事になる事はなかったけど、今考えればそんな態度だったからこそ、いじめの対象になってしまったのかもしれないと思う。
見てみぬふりをしていた担任の岸本先生は後に通勤中の電車で女の子に手を捕まれ、
「この人痴漢です」
という言葉と共にこの学校を去る事となるのだが、それは又別の話。
冤罪なのかどうかは分からなかったけど、仮にやっていたとするならストレス発散による突発的な行動だったのかもしれない。
モンスターペアレントと呼ばれる様な親達は彼に「うちの子はこんな奴に教わる事などない」と罵ったけど、彼女達の子供の多くは私をいじめていた奴等だ。
自分達の事は棚上げし、気に食わない事に文句を言う。
そんな、人に迷惑をかけても何とも思わない人達が他人の心を傷付けるモンスターを生み出すのかもしれない。
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