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第十四話 いじめとの戦い
「涼香何処行った?」
「さっきトイレに行くのを見たよー」
そんな声が聞こえたかと思うと、バケツいっぱいの水が私の入っていた個室に降り注いだ。
全身ずぶ濡れになりながらも、悲鳴を上げたい感情をおさえて必死に耐えた。
「おい涼香!
居るんだろ?
隠れていないで出て来いよ!」
クラスメイト達のそんな声が響いていたが、私は出ていく事ができなかった。
どうして私はこんなにも他人と仲良くできないのだろうか?
彼女達と違う所といえば片親で、母があまり家に帰ってこない寂しい鍵っ子だという事くらいだ。
だがそれは、悪い事なのだろうか?
いや、よくよく考えてみれば親にすら愛されない子が他人に好きになってもらえないのは当然なのではないか?
私は誰からも望まれていないし、必要ともされていない。
そう思うと、何だか喉が詰まった様な感覚に襲われ、息苦しく感じる。
次の瞬間、胃の内容物が口に向かって逆流してくるのが分かった。
幸いにもここはトイレだ、便座のフタを開ける。
「うぉえぇぇぇぇっ」
「上杉先輩、そんな事をして楽しいんですか?」
「あ?お前誰だよ?関係ねーだろ?」
しばらくして外でそんなやり取りが聞こえてきたかと思うと、誰かが殴られる音や窓ガラスが割れる様な音が続いた。
数分で静かになったけど、その後何度かノックの音が響く。
「大丈夫?」
そーと扉を開けて、覗いてみると知らない女の子がこちらを見ていた。
「もう大丈夫だから……」
彼女はそう言って私の手を握ると、外へ連れ出した。
座り込んで顔をおさえる子、完全に気絶している子、肩をおさえながらこちらを睨みつけている子等、見える範囲にはそんなクラスメイトが六人も居たけど、彼女一人でこれをやったというのだろうか?
「どうして私を助けてくれたの?」
下級生の教室へ連れて行かれ、彼女は体操服とジャージを貸してくれた。
濡れたままでは風邪をひくから着替えろという事らしい。
「困っている子がいるのなら、助ける事に理由なんていらないでしょ?」
その後は着替える為に保健室に連れていかれる。
「でもあなたは、学年も違うのに私の事なんて知らないでしょ?」
少し考えている様だった。
「それはね、お兄ちゃん達があなたを助けたいって言っていたから……。
でも、あなたはトイレの個室に隠れていて手を出せなかった。
男子が女子トイレに入って、さっきと同じ様な事をすれば、今以上に大事になるでしょ?
だから妹の私が、代わりに……」
そんな話を聞き、助けようとしてくれていたクラスメイトが居た事に涙が溢れ出した。
「あなたのお兄さんって?」
渡された体操服の胸に刻まれた名前を確認する。
「高田……さん……?」
「そう。
お兄ちゃんの名前は高田颯太、私は麻衣。
よろしくね……」
そう言って私に微笑む彼女は女神か天使に見えた。
話をしながら保健室に到着すると、中には見知ったクラスメイトが二人いた。
高田颯太君と川島誠君だ。
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