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第二話 神様への願い
「神様って信じるか?」
いつもの朝、学校に向かって歩いていた時、朝食のトーストをかじりながら隣を歩く誠にふとそんな事を聞かれる。
「神ってなんだよ?
変な宗教でも始めたのか?」
普段から仲の良い友人が、急に神などと口にしたらそう思うのも無理はない。
少なくとも僕はそんな非科学的な存在を認めてはいなかった。
「いや、宗教の話じゃないよ……」
神と言われれば高額な壺や装飾品を買わされる詐欺紛いの商法や祈れば夢が叶う等という何の根拠もない怪しげなイメージしかない。
「それ、本当に大丈夫な話なのか?」
彼は変な顔をして「そんなんじゃない」と言う。
何度も家に勧誘の二人組が来て、興味がない話を長々とされて迷惑だった事を思い出す。
だがその一方で、元旦には初詣に行き賽銭箱にお金を入れてお祈りをしている。
そういう意味では日本人の多くが仏教徒なのかとも思うけど、十二月にはクリスマスを祝っているところをみるとキリスト教徒でもあるのではないかと考えていた時期もあった。
「じゃあ何だよ?」
それは単に一年の恒例行事であって信仰とは違うのだと父さんは言っていた。
皆何かしらの理由をつけて酒が飲みたいだけなのだという。
極論だろうと思う部分はあるものの、その側面がある事も否定できない自分がいた。
社会は悲しさとストレスで溢れているから、大人は酒を飲まないとやっていられないのも事実だ。
母さんが亡くなって悲しんだ経験から今でもそう思っている。
あんな事があって心を閉ざしてしまった僕を元気づけてくれたのは妹と誠で、二人には感謝してもしきれない。
しかし、だからと言って彼の怪しげな話を信じる訳には行かない。
本人は違うと言っているが、洗脳されていたとしたらそれに気付く術はなく、変な宗教に首を突っ込んでいるなら友人として止めなければならない。
個人的にも信仰を押し付けられるのは迷惑以外の何ものでもないのだ。
母さんの為に祈りたいという気持ちはゼロではないが、無宗教で神や仏を特に信じていなかった彼女がそんな事をして喜ぶとも思えない。
「例の洞窟だよ……」
そんな事を考えていると彼は予想していなかった言葉を口にした。
僕と誠が最近よく行っていた海岸に不思議な形をした洞窟がある。
潮が引く時だけ中に入る事ができ、その一番奥に小さな祠がある。
「あー成る程、そういう話か……」
何の神が祀られているのかは知らないけど、その祠に祈ると願い事が叶う……。
そう信じているようだった。
潮が引いた時、彼はその祠の前に百円玉を三枚置いて手を合わせ、「次のテストで良い点が取れますように」と願った。
するとどうだろうか、数日後のテストで見事に全問正解の満点を取ってしまったのだ。
マーク式だったために当てずっぽうで黒く塗り潰した答案用紙をみて一番驚いていたのは彼自身だ。
勿論自分がどれにマークをしたのかなんて覚えてもいない。
洞窟を見つけたのは偶然だったし、祠の前で祈ったのも遊び半分だった。
しかし、実際に全く勉強をせずに満点を取ってしまった彼はその神の力を信じずにはいられなかったのだと思う。
「一問も分からなかったのに満点って凄いよな……」
数日後にまたその場所を訪れたが、洞窟の入り口は浸水していて入る事は出来ずじまい。
僕達はその場所に毎日通い、潮が引いて洞窟に入れるようになる周期を調べた。
正直僕は彼のテストの件が、ただの偶然だったのではないかと思っている。
仮に本当にそんな力があるというのならそれはそれで凄い事ではあるのだが……。
「それでなんだが……」
言いたい事は分かっている。
僕達の調査の結果、潮が引いて洞窟に入れる様になるのは明日だ。
「何か望みでも?」
前回が偶然だったのかどうか、今回でハッキリするだろう。
「ちげーよ。
お前の願いを叶えるんだよ……。
もし、成功したらこの力が本物だって証明できる!」
彼には呆れる。
そんな力が本物である筈がない。
「はぁ……分かった……」
ため息をついてから、しぶしぶ了解する。
僕の願いが叶わない事でこの力が偽物であると証明でき、彼を黙らせる事ができるのだとしたらそれも悪くはない。
「よし、じゃあ望みは何にする?」
正直な話、今の僕には神に祈る丁度良い望みなど特にない。
適当に言ってすぐに叶う様であれば、彼は調子にのるだろう。
だからこそ、ここは「なかなか叶わない事」を願っている風を装う必要性がある。
だが、絶対に叶わない無茶な事を言えばナメているのか!と怒り出すに違いない。
何かピッタリな望みはないだろうか?
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