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第三話 僕の願い
校内に鳴り響くチャイムが午前授業の終了を知らせると、前の席の誠は椅子を後ろに向け、僕の机で弁当をひろげる。
母さんが亡くなってからは、パンだったり父が作る焦げたおかずでお世辞にも美味しいとは言えない微妙な弁当だったりする。
彼が美味しそうに昼食を食べていると、母さんを思い出して胸が苦しくなる。
「あぁ腹減ったな、早く昼飯にしよう」
そう言った瞬間には既に口に何かが入っていたが、もはや突っ込むまい。
「で、お前は望みが何もないのか?」
こいつも本当にしつこい奴だと思う。
「ないよ……」
朝の会話でその話を聞いてから午前の授業中、ずっとその事を考えていた。
望み……とは少し違うかもしれないけど、ずっと心に引っかかっていた事がある。
「……と言いたいところだが、あるにはある」
彼は一旦食べるのをやめ、箸を机に置く。
長い付き合いになるので、僕の心は読まれていたのかもしれない。
もしかしたら、これを僕の口から言わせる為にこんな「神を信じるか?」などという話をしてきたのかもしれないとさえ思えてきた。
「じゃあ言えよ……」
だけどこの問題は僕のせいで起こってしまった事なのだ、今さらどんな顔をして相談すればいいんだろうか?
「お前のその祈れば叶うという神のパワーと言うやつ……信じるのをやめさせたいんだ。
あんなテストの結果なんて偶然だろ。
それで神を信じるか?とか、願い事をしつこく聞かれる僕の身にもなってくれ……」
僕は天邪鬼で本当の気持ちも言えず、友達にこんな気を遣わせている最低な奴だ。
「そっか……それで他に願いはないのか?」
何故そんなに嬉しそうに笑っていられるのだろう?
「話を聞いていたのか?
自分がテストで良い点を取ったからって、僕に神を信じる事を強制するなと言ってるんだよ……」
それでもこの話を止めようとはしない。
僕が本音で話していない事を知っているからだ。
「お前は良い奴だが、少しお節介じゃないか?」
こちらを見てニコニコと笑っている。
「うん、よく言われる」
仕方なく話す事にした。
「僕の願いは……」
良い友達を持ったものだ……。
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