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第四話 望み
雨が降る中、海岸にある洞窟の前で傘を閉じる。
ここは波浪による侵食でできたものであり、自然が作り出したものだ。
以前誠と二人で周期を調査していた時に調べた雑学。
奥の祠はかなり古いものだった事から、おそらく作られたのはかなり昔だと思われる。
図書館で調べてはみたものの、歴史的な事は一切分からなかったし、誰かに聞いた事もなかった。
誠に無理やりにでも、と言われて来てはみたものの、やはり気持ちの整理は出来ていない。
天気予報では晴れだと言っていた筈だが僕がここへ来ると決めたとたん降り出し、天は暗く沈んだ気持ちを代弁しているのだろうかとさえ感じてしまう。
薄暗い入り口を懐中電灯で照らしてみると、中は歩ける程の道ができている。
「あれほど煽ったくせに、言い出しっぺが来ないとかどういう事だよ……」
正直わざわざこんな所まで来るのは面倒だったが、祈れば叶うという力の有無が気になって、気付けば足が勝手に向かってしまっていた。
勿論僕はそんな神の不思議な力と言う非科学的なものを信じてはいないし、テストの件も偶然が重なっただけだろうと思っている。
しかし僕に関して言えば、自分の気持ち次第だという所は大いにある。
これはただの神頼みではなく、自分に喝を入れる儀式のようなものだと考えている。
神に頼って何でも願いが叶うと言うのなら世界はもっと平和で、悲しみやストレスで満ち溢れたりはしていない筈である。
そんな風に納得させる言い訳を考え、不思議な力を信じない自分がここに来た理由を考察してみる。
奥に進むにつれて外の雨音はボリュームを下げ、自分の歩く音だけが洞窟内に反響する。
足に怪我をしそうなごゴツゴツとした岩は、奥に誰も行かせない為のものかもしれないとさえ思えた。
祠の前には元からあった千円札と前回誠が置いた百円玉が三枚並んでおり、こんな所に来る人など殆ど居ないのは、そのまま放置された札とコインが物語っている。
神様にお願い事をする時の賽銭相場が分からないが、とりあえず前回の誠同様にズボンの右ポケットから取り出した百円玉三枚を祠の前に置く。
彼が言う様な神の力など何一つ信じてはいないが、やってみないと何も始まらないので、とりあえず願いを込めて手を合わせ、目を閉じる。
果たしてこのやり方が正しいのかは分からないが、少しの間祈ってみる事にした。
しばらくすると、自分以外に誰も居ない筈の洞窟内で足音が反響し始める。
目を開けて音の聞こえる入り口の方を向くと、ライトがチラチラと光るのが見える。
僕以外にもこんな所に来る物好きがいるとしたら彼しかいない。
「誠のやつ、自分は来ないと言っていたのに僕が一人でも来たのかを確かめる為に来たのか……」
どうしてそこまでして神の力を信じさせたいのかは何となく分かる。
真面目な性格をしているから、神に言ってしまえば涼香ちゃんにそれなりの態度を取らないといけなくなる。
そうやって自分の思っている事を吐き出させて、仲直りさせようという作戦だろう。
まぁどちらにしても、こんな不気味な所に一人で居るよりはよほどマシだったので、丁度良い。
しかし話が無理やりだった事もあって、少し腹を立てていたので、こちらに来る彼をおどかしてやろうと祠の影に隠れた。
リズムよくだんだんと大きくなっていく足音を聞きながら考えてみると、百円玉が六枚になっている事を見れば、ここに来た事はすぐに気付かれてしまう……。
そもそも彼の提案で僕はここに来たのだから居て当然だし、おどろく筈などない。
「まこ……」
影から出て彼に話しかけようとした時、イメージした彼のものとは違う声が聞こえた。
「神様、私のお願いを聞いてください……」
おどろいて再び影に身を隠し、暗闇の中からそっと覗く。
何故こいつがここに居るのだろうか?
この場所を知っている筈がないというのに……。
僕が教えていないのだから、情報が漏れたとするなら誠が話したとしか考えられない。
彼は本当にお節介なやつだと改めて思う。
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