あかりの家

3/5
前へ
/5ページ
次へ
【母 幸子】 あかりと連絡が取れなくなって、3年が過ぎた。 私のたった1人の家族、あかり。 彼女が産まれた時、私の暗くて寂しい人生に一点の光が宿ったような希望を感じた。 あかりはまさに、そこにいるだけで私の人生を照らしてくれるような存在だった。 あかりは昔から、絵を描くのが大好きな子だった。 家にある画用紙を使い切ると、チラシの白い隙間を見つけてはそこに何か描いていた。 片親であんまり裕福ではなかったけれど、好きなことを1つでも見つけてくれたことは嬉しかった。 あかりの絵の題材はいつも家だった。 一度、あかりが私にプレゼントしてくれたことがある。 ありったけの色を使った、とびきりカラフルな家の絵だった。 「あかりがおおきくなったらおかあさんとすむいえ」と言ったあかりがとにかく可愛くて、とても誇らしかった。 高校を卒業してまもなく、あかりは就職して一人暮らしを始めた。 初めて親元を離れて気持ちも大きくなったんだろう、もともと淡白な性格ではあったけれど、しだいに連絡も来なくなった。 しばらくした頃、突然あかりが『注目の新人美人画家』としてネットニュースに出た。 インスタに自分の作品を上げていたようで、私も依然見たことがあるような家の絵が並んでいた。 驚いてすぐに連絡したけれど、しばらく返信がなかった。 数日後、返ってきた返信が「ほっといて」。 何があったのか心配になって連絡してみたけれど、それから全く返答がなかった。 警察も、メッセージが返ってきているともっともらしい理由をつけて真剣に捜査してくれない。 今、どこで、どうしているんだろう。 あかりがプレゼントしてくれた絵も、だんだんと色あせてきてしまった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加