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「パパどうしたの?お腹痛い?」
サチが覗き込むのを引き寄せて抱きしめた。清隆がくれたものだ、と思った。清隆が、守ってくれたものだ。コーヒー屋に向かう背の高い後ろ姿を想像した。きっとその足取りはいつもと変わらず軽かったんだろう。そう思うと、やりきれなかった。
握りしめていた本の表紙は僕の涙でみるみるうちにふやけていった。僕の運命の一冊は僕たちの過去を変えてはくれなかった。でもきっと僕が未来を生きるための戒めになる。自分の浅はかさを悔やみ、喪失感に身を苛まれ、激しい後悔を胸にそれでも僕は、清隆が守ってくれたものを、一生全力で守り抜く、と心に誓った。
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