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ねえねえ起きて、と揺さぶられて目が覚めた。朝ご飯だよ、と顔を覗き込まれて飛び起きる。サチがニコニコとして「おはよ」と言った。おはよう、と返してしばらく放心する。夢だったのか?それにしては随分とリアルだった。体を起こそうとしてベッドに手を突くと、指に何かが触れた。つるりとした青い表紙。僕はぎくりと動きを止めて、それから恐る恐るその本を手に取った。
「パパ、それ何?きれいな本」
サチの声を聞きながら、ぱらぱらとページをめくり、やがて僕は堪えきれなくなって頭を抱えた。白い頁に迷いのない力強い文字で記された言葉。
「あるべきものをあるべき場所へ」
見慣れた清隆の筆跡だ。あの晩、僕が酔い潰れて寝た後に書いたのだろう。あいつは結局コーヒー屋に行くことを選んだのだ。
一体どんな気持ちで、と思うと僕は耐えられなくて嗚咽を漏らした。未来を、運命を変えてはいけないとあいつは思ったんだろうか。家族とあいつの命を天秤にかけた僕の逡巡を見破ったんだろうか。
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