第一章 名家の子

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「ねえ、リレイヌ」  優しい声が降りかかる。 「一緒に居てあげられなくてごめんね? 産まれてきてくれてありがとう」  声は穏やかに、されど悲しみを孕んだ様子で、そっと言葉をこぼしていく。 「どうか、幸せに……幸せになってね……?」  懇願にも似たそれにそっと目を開けた時、目の前には二つの金色が存在していた。じっとこちらを見つめるそれにパチリと目を瞬けば、一瞬の間の後、金色が驚いたように見開かれる。 「うわぁ!!??」  声を上げ、ソレは背後へ傾いた。そうしてドシン!、と尻もちをつく。盛大、とまではいかないものの、それでも打った箇所を痛めるレベルには派手に転んだ少年に、リレイヌは静かに寝転がっていたベンチの上で上体を起こした。不思議そうに見下ろすその視線の先には、癖のある茶髪の少年──リックがいる。  リックは「いてて……」、と小さく零すと、すぐにハッとしたように己を見下ろすリレイヌを見た。リレイヌは心配そうに「大丈夫?」を零している。 「……だ、だいじょうぶ」  カラカラの声で、彼は答えた。 「そっか。よかった」  柔らかに笑う彼女に、彼は目を奪われていく。 「……キミ、さっき会った人だよね? また迷子になった?」 「……迷子になんてなってない」 「あれ、そうなの? ごめんなさい。勘違いしてた」 「……別に」  フイッと顔を逸らしたリックに、ベンチを降りたリレイヌは片手を差し出す。「立てる?」と微笑む彼女に一度目を向け、彼は差し出された手は取らずに自力で立った。 「施しは受けない」  告げる彼に、リレイヌは「ほどこし……?」と小首を傾げる。 「……それより、お前、シェレイザ家の養子かなにかか? それにしては能天気に眠っていたようだけど……」 「違う。私、ココに今住まわせてもらってるだけ。もう少ししたら母様たちの所に帰る……と思う……」 「……思う? ……ひょっとしてお前、捨て子かなにかか?」 「ちがう」  即座に否定したリレイヌ。リックは「……あっそ」とそっぽを向いた。  静寂が、ふたりの間に広がる。 「……キミ、名前は?」  リレイヌは問うた。 「リック。リック・A・リピト」  リックは静かに名乗ってみせる。 「リック! かっこいい名前だね」 「そう? 普通だと思うけど……」 「ううん、かっこいい! 私好きだ。リックって名前。綺麗なキミにピッタリだし、なんて言うんだろう……えーっと……ステキ! うん、とってもステキ!」 「……」  むず痒いような、そうでないような。複雑な顔をしたリックは、そこで聞こえた足音にハッとし、急ぎ足でその場を離れた。残されたリレイヌが「ぁ」と小さく声を漏らすも、彼は止まらずそのまま歩き去っていく。 「……ん?」  ふと、足元に何かを見つけた。しゃがみこみ手に取ってみたソレは小さなボタンで、表にはなにやら紋章のようなものが刻まれている。リレイヌは思わず首を傾げて、リックが去っていった方向を見つめた。 「コレ……」  あの子のかな?  呟いたリレイヌに、遠くでリオルが「おーい!」と声をかけていた。
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