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鈍色の瞳
◇
「先生のお顔って、美しいですよね」
アタリをつけたキャンバスにその輪郭を描く。布地の上を鉛筆が滑る音と、グラウンドを走る部活動の生徒の声が静かな美術室に心地よく潜り込んだ。
「はぁ…そうですか? 自分ではそうは思いませんが」
「美しいです。完璧に黄金比を捉えた配置にそのパーツ、文句の付けようもないと思います」
「……絵を描くというのは、相手をよく観察しないと成し得ないことですからね…一応喜んでおきます。ありがとうございます」
私と先生はといえば、向かい合わせに置いたキャンバスの奥に座り互いを描いていた。
いくら絵を描くためとはいえ先生にまじまじ見られる経験は初めてなので、緊張して呼吸が浅くなってしまう。そしてそれを隠すため、不必要に語りかけては気怠そうな返事を待っていた。
「(先生の顔…好き)」
通った鼻筋を中心に、垂れ気味な目と薄い唇が狂うことなく正しい位置に置かれたその顔はまさにタイプで、一目惚れだった。
そして見た目もさることながら先生の纏う儚げな雰囲気は目を惹くものがあるし、話し方や何を考えているか分からないミステリアスなところまで、全てがドストライク。
岬先生という人物は、私を魅了するために生まれてきたと言っても過言ではないのだ。
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