先生は知っている

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 ──がらら。たてつけの悪いドアを勢いよく開くと、そこは騒がしい校内とはまた少し違う独特の雰囲気をもつ空間。  ところどころ絵の具の染みついたカーテンを風が揺らすと本来の布地である白がきらきらと光を反射させ、ツンと鼻を刺すシンナーの匂いとともに視界に入るその教室の主は今日もまたキャンバス越しに私を見た。 「(みさき)先生」 「矢代(やしろ)さん…こんにちは」  美術の岬先生は、私が小さな嫌がらせを受けていることを知っている。というのも美術の授業で使うものばかりなくなるので、毎回なくしたことを言っていたら仕方ないからとこっそり代用品を貸してくれるのだ。 「…今日はどうしました?」 「アクリルガッシュが一本、やられました」 「あら…何色ですか」 「コバルトブルーです」  コバルトブルー、コバルトブルー…。  独り言を繰り返しながらくるくると回る椅子で後ろに向くと、机の引き出しを漁り目当てのものを探す。その背中を眺めつつ近くにあった椅子に腰をおろした。  少し伸びた髪の毛は天然パーマなのか軽くウェーブがかかっていて、大きくまるい眼鏡の奥には童顔な素顔が隠されている。  作業着がわりの薄汚れた白衣には、カーテンと同じカラフルな絵の具のシミ。
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