黒紅の声

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 自分の気持ちを全面に押し出し解釈していいのなら、私は先生から告白されたとすら思える。  飴をくれた、その行為は、嫌いな生徒にするわけないだろうし少なくとも嫌われてはいない。  嫌われてないと好かれているは別ものだけど、好きだから私に飴を渡したとも受け取れるので先生のお墨付きを頂いた素直さで後者を選ぶ。  手のひらで未だ存在感を放つ小さな飴が、なんだかとてつもなく貴重で神々しく見える私はそれを大事に胸ポケットにしまうと、美術室をあとにした。 「(先生のアクスタの前に飾ろう…)」  私の部屋の一角に岬先生を祀った祭壇がある。  簡易的ではあるがネットで発注した先生のアクリルスタンドと、美術室のゴミ箱に捨てるところを目撃した絵の具のチューブなどを大切に飾ってある、いわば宝物だ。  こんなことを友達に言えば頭のおかしい異常者だと思われるだろうが、芸能人相手に同じことをしてる人はたくさんいるはずなので何が違うのかわからない。  身近な人間に魅せられただけで、アイドルを推すオタクと思考は全く一緒なので私は正常で平凡な女子生徒だと自負している。  上機嫌に人で溢れかえる廊下を進み、自分の教室で席に着けばちょうど昼休みの終了を告げる鐘が鳴った。 「(今日の放課後は美術室いこう)」  単純な私は、それだけで緩んで締まりのない顔を頬杖ついて必死に隠した。
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