藤色の指先

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藤色の指先

 長く続く授業の先に先生との時間が待っていると思えば、興味のない勉強もそれなりにモチベーションを保ちつつ過ごすことができた。  教室という四角い箱の中には色んな生徒がいるけれど唯一私だけが、岬先生から貰った飴を胸ポケットに忍ばせている。  そんな夢のような事実はお守りを与えられたのと同じ効力を発揮しているようで、誇らしさとともに優越感にも浸ることができた。 「(ちょろいなぁ、私)」  世の中には先生と一生を添い遂げる予定の女性が存在しているというのに、ご褒美と飴ひとつ貰っただけで有頂天の人間も同時に存在している。  随分な格差ではあるけれど、先生に好かれていると思うことにした脳内にはふわふわと花が飛び、またにやける口元を俯き隠したところで本日全ての授業を終える合図が鳴った。  それすなわち岬先生に会えることを意味しているので、日直の号令に合わせ立ち上がると深々頭を下げる。  こんな浮かれ気分を胸に掲げたままさっさと帰る準備をして、担任のくだらない話を聞き耐えること5分、ついに私は解放された。
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