藤色の指先

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 ぱたぱたと廊下を走り、時折それを注意されたりしながら辿り着いた美術室にまだ岬先生はいなかった。  いつもなら施錠されているはずの美術室がなぜか開いていることに気を取られながら吸い込まれるように入室すると、私は愛しの教祖様を待つ。  放課後に訪れるのは久しぶりになるので、どこかワクワクする気持ちが勝手に鼻歌となり流れていった。 「(先生まだかなー…)」  時間にしておよそ15分、未だ現れる気配のない先生に、段々と寂しくなってきて席を立ち室内を歩き回る。  コンクールのポスター、授業で作った作品の数々と、たくさん立てかけられた大きなキャンバス。  見るのに飽きがくることはなさそうだけど、そんなことより早く先生に会いたい私はどうしたって落ち着きがなくなってくる。 「(会議、とか?)」  うーん、唸りながらふと視線を向けた先に美術準備室。先生がたまに出入りしてるところを見たことがあるそこは、未知の領域だった。  何があるんだろう?単純に好奇心を掻き立てられてそのドアに近付けば、僅かに開いた隙間から中が見える。  壊れたイーゼルに、余った椅子、積み重なった資料や教科書。  なんだ、ただの物置き部屋か。  そう思い開いたドアを軽く押すと、古びた金具がキィ、と高い音を立てた。
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