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「なんで……」
ここにあるのだろう。
まさか独りでに足が生え歩いて来たわけではないだろうし、誰かがここまで運んだとしか思えないのだけど、何せ美術準備室なんて普通の生徒は訪れることのない部屋。
だとしたら考えられるのはただひとり…
「(落ちてたのを岬先生が拾った…とか?)」
まさか先生が私のロッカーを開けて持っていくなどとは考えられないので、1番ありそうな線を辿っていく。
だとしたってこんな大きく名前の書かれたものを見つけたら、普通持ち主に返すはずだ。私なんて顔を合わす機会もそれなりにあったのだからなおのこと。
「……え、? まってまって…」
どういうこと? ちょっと混乱してきた。なくしたはずのパステルが、今ここにある。岬先生の領域に。
そして先生は私がパステルをなくしたことも知っているし、なんなら代用品まで貸してくれている──…のに。
自分の名前が書かれていることを確認するように何度も指でなぞる。そのうち指先に薄ら付着した埃を制服のスカートに擦りつけると、背後でカタン、と音がした。
勢いよく振り返ると、部屋の入り口のところでいつもの和かな笑顔を見せる待ち侘びた人の姿があった。
「岬、せんせ…」
どく、と発作のような鼓動に息を飲むと、何か悪いことが見つかったときの緊張感が駆け抜ける。貼りつけた笑顔の奥で全く笑っていない瞳がちらりと私の手元のパステルに移ると、その後に呟いた。
「ああ…見つかってしまいましたね」
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