藤色の指先

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 だとしても、疑問は湧いてくる。  一体何のために、どんな目的があってわざわざ私のものを隠したのか。  正直見た目にしても中身にしても、これといって他人を虜にする術を持ち合わせない私なのでシンプルにそこが不思議だった。  握られたままの手からパステルがするりと抜け床に落ちる。ばらばらとケースを飛び出し散らばるそれが花火のように見えて、反応が一瞬遅れた。 「わ」とどこか白々しく発したあとで、それを拾おうと握られた手を振り解こうにも強く握られていて叶わず、戸惑いながら口を開く。 「、? あの…離して…」 「拾わなくていい」 「えっ…でも」  床にぶち撒けたものを拾わない、という選択肢があることに驚きつつ先生を見たら「いいからそこの椅子に座りなさい」と手を引かれ、有無を言わさず踏み出した上履きの下で散らばったパステルがぱき、と小さな音を立て割れた。  チョークのような粉っぽさと、クレヨンみたいな質感を靴裏に感じながら埃を被った床にブルーやイエローの足跡が残る。  勿体なさと罪悪感で支配された胸を抱え指定された席に着くと、先生がどこかから取り出した1枚の紙を古びた机の上に置いた。
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