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握らされたペンを持つ手が震える。
それを冷たい視線で見つめる先生が、自身の大きな手で覆った。
「ああ…これじゃあ上手にできないだろうから一緒に書いてあげますね」
ぐ、と力強く動かされる手。
心臓の音がどんどん早くなり口から飛び出そうなほど煩いのに、先生は気にする様子もなく平然と私の手ごと紙の上を滑らせるボールペン。
「せ、んせ…」
知らない人みたいで怖い。この人は一体誰なんだろう?
力任せに動かすペンが古びた机の穴に引っかかり、ぐしゃ、と紙にシワを作った。
そのタイミングでようやく息を吸い込めた私は絞り出した声で「正気ですか」と問うが、先生はにこりと微笑んで告げるのだ。
「正気じゃない僕を、これからゆっくり愛していけばいいのです」
そう呟いた美術室の魔物は、やっぱり美しかった。
ー 完 ー
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