episode08.

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口論はどんどんヒートアップし、お互いの声のボリュームも大きくなっていく。 「……好き、だからだよ」 再び深く深呼吸し、心を落ち着かせてから放った声は、私と碧葉しかいないリビングに小さく響いた。 「好きだから不安になるの。好きだから、傷つくのが怖いの。目の前のことよりも先のことを考えて、勝手に怖がって、勝手に不安になって。自分が傷つかないように、自分を守るために逃げてるの」 「……」 「黎の気持ちは十分すぎるくらい伝わってるし、その気持ちが嬉しい。私も同じ気持ちだよって、本当は黎に伝えたい。だけど、これから黎が大学生になって、社会人になって、たくさんの人に出会った時、私以上に好きな人ができるかもしれない。黎が社会人になった時、私はもうアラサーだよ?やっぱり同世代の子がいいなんて言われたら……私、立ち直れない。その未来がくる可能性が1%でもあるなら、黎との幸せなんて知らなくていい」 「……」 「それにね、もしも黎に他に好きな子ができた時、黎は自分の気持ちを押し殺しちゃうんじゃないかなって。黎はきっと優しいから、私への気持ちがなくなったとしても責任を感じて私の側にいてくれると思う。私の存在が錘になって黎を縛りつけちゃうんじゃないかって……それも怖いの」 「それは愚問じゃね?」 「全部悪い方、悪い方に考えちゃう。黎のこと散々傷つけておいて自分勝手すぎるでしょ?でもね、私もどうすればいいか分からないの。こんな気持ちになるのは初めてなの。今まで付き合ってきた人、誰1人、こんなこと思ったことなかった」
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