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私を飛び越えて交わされた会話。
聞きなれた抑揚のない声はこの場にいるはずのない人物のもので。
なんで?どうして?が頭の中を駆け巡る。靄がかっていた脳内が徐々にクリアになっていき、サーっと血の気が引いていく。
私の背後に位置しているキッチンから聞こえてくる足音。どんどん近付いてくるその足音は、未だしゃがみこんだままの私の後ろでぴたりと止まった。
なんとかこの場から立ち上がろうと、力の入りきらない両手両足をもぞもぞと動かしていた時。背中にずっしりとした重みを感じ、私の身体は更に沈んだ。
「絶対、嫌いになんてならない」
「……れ、い」
「どんなに酷いことされても、突き放されても、もえのこと嫌いになんてなるわけない」
「、うぅっ…」
「もえ、すき」
「っ…、」
「だいすきだよ」
私の身体に絡まる黎の両腕。ぎゅうっと潰されてしまいそうなほどの力に苦しくなって身を捩ろうとするけれど、その腕はびくともしない。それどころか、私を抱きしめるその力はどんどん強くなっていく。
「おい、黎。萌葉が死にそう」
正面からの碧葉の声にはっとしたように息を呑んだ黎は、両腕を勢いよく離した。全体重が乗っていた背中がいきなり軽くなる。
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