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 ふとそんな思考が脳裏を掠り、真介の身体に僅かな緊張が走ったが、それは杞憂だった。 「……誠にお恥ずかしい話です。あなたの調査、推測、そしてご指摘は全て的確でございます。あの事件を増長させた責任は、この私にもございます」 「認めるのですね。自分の落ち度を」 「はい」  柳沢オーナーはマスクを外し、顔を上げた。その表情には痛みもあれど、どこかしら晴れやかさもあった。もしかすると彼は事件の後、一人悔恨の日々を送っていたのではないか。厳しい世間の批判や邪な人間がペンションにやってくるのを、己に課せられた罰なのだと受け入れて。 「小森様……少し、私事を話させて頂いてもよろしいでしょうか」  オーナーは澄んだ眼差しで真介を見据えた。真介も自身の落ち度も認めたこの人物を、これ以上責める気はなかった。むしろ、私事でも話を聴こうという気さえ起こった。 「かまいません。話して下さい、聴かせて下さい」  真介が促すと、柳沢太志は語り始めた。
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