{ 序章 }

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 朝食が済めば、再び自室へ戻るのに付き添ってくれる四季様がその日1日の予定をざっくりと話す。  …まあ就労や勉学に勤しんでいるわけでもない私に予定なんて大それたものはなく、持て余した時間をどう溶かしていくのか、という内容。  大抵は私が暇をしないよう気遣ってかおふたりのうちどちらかが散歩に連れ出してくれたり書庫に案内してくれることが多い。  そして今日は、何やら上機嫌で私の左手を引く四季様が「このまま僕の部屋においで」と朝食室から真っ直ぐ彼の部屋へと向かっていた。 「…何か、良いことでも?」  心なしか弾んで見える背中に問い掛けると、半分振り返った横顔が整った凹凸を晒す。 「うん、今日はね、依莉の新しいお洋服が届いたよ」  そう答えたら、また真っ直ぐ向き直り鼻歌を口遊む。 「(お洋服……)」  四季様は、私の身につけるもの全てを管理して下さっていた。その日着るものから、ヘアメイク。産まれてこのかた、私は自分で服を選んだことがない。  余程楽しみにしていたのか、足早に辿り着いた彼の部屋。私の部屋より数倍広く、眺めの良いバルコニーがあるそこはあまり足を踏み入れることのない領域だった。
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