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{ 序章 }
それは、曇天のように淀んだ夢。
幾度となく繰り返されるそれは、いつも目覚めた私の記憶には残らないのに、ずんと重い鉛を心に埋め込んだまま居座っている。
「おはよう、依莉」
天蓋付きのベッド。
上半身を起こし今にも雫を溢しそうな窓の外をぼんやり眺める私に、声を掛けたのはこの屋敷の主人の1人。
「…おはようございます、四季様」
すらりとした長身に纏う白いシャツとグレーのスラックス。いつも笑っているように見える緩やかに弧を描く目元が涼しげに私を映すと、大きな窓をほんの少し開きそこから吹き込む冷たい秋風がさらさらと淡いベージュの髪が靡かせた。
「よく眠れた?」
毎朝同じ問いかけで始まる1日だ。他愛もない返答で応える私が小さく頷けば、「そう、よかった」と微笑む彼がそのまま続ける。
「朝食にしよう。着替えるよ」
言いながらクローゼットを開いた彼が薄いブルーのワンピースを取り出すと、それをベッドの端に置く。私はといえば、指示に従うように一晩を共に過ごしたネグリジェを脱ぎ、指定されたブルーのワンピースに袖を通す。
ナチュラルに後ろにまわった彼は、私の髪をサイドに寄せ慣れた手つきでファスナーを上げた。
「依莉、少し痩せた?」
「、? いえ…」
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