第三章 戦略の第一歩

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「よし、次の手はこれだ」 部活動中、僕は美月の教えを頭に思い浮かべながら、慎重に駒を動かしていた。ゲームは中盤に差しかかっており、周囲の部員たちもそれぞれ真剣な表情をしている。これまで何度も負け続けてきた僕だったが、今日は少し違った感覚があった。 美月から教わった「資源を無駄にしない」戦略を思い出し、序盤から慎重に動いてきた。その結果、今のところ大きなミスはしていない。そしてゲームの進行とともに、僕の中にわずかながらも「勝てるかもしれない」という期待が生まれ始めていた。 「いい感じじゃない、瀬戸くん!」 美月の明るい声が隣から聞こえてくる。いつもならその応援が逆にプレッシャーになっていたが、今日は不思議とそれが気にならなかった。むしろ、彼女の声が背中を押してくれているような気がする。 ゲームは終盤戦。僕の手元には、まだ使える資源が残っている。美月が言っていた通り、資源を無駄にせずに温存していたのが功を奏したようだ。 「ここで一気に攻める……!」 思い切って大きな決断を下し、駒を進める。今までの僕なら、このタイミングで無計画に動いていたかもしれない。しかし、今日は違う。慎重に、そして冷静に判断した結果の動きだ。 周囲の部員たちも、僕の動きを注視している。これまで無様な負けを繰り返してきた僕にとって、彼らの視線はいつも冷ややかだった。しかし、今日は少し違う。僕の動きが彼らの目に留まっているのを感じた。 「よし……これでどうだ」 最後の一手を置いた瞬間、ゲームが終了した。静寂が部室を包み、僕は自分が本当に勝ったのかどうか、まだ実感が湧かなかった。 「おめでとう、瀬戸くん!初勝利だよ!」 美月の声が弾んでいる。彼女が見守る中、僕の初勝利が確定した。その瞬間、胸の奥から込み上げる喜びがあった。 「やった……本当に勝ったんだ」 僕は呟きながら、少し震える手で駒を片付けた。勝利そのものは些細なものだったかもしれない。他の部員たちにとっては日常茶飯事の勝負だろう。しかし、僕にとってはこの勝利が大きな意味を持っていた。 今まで、僕はただゲームに参加しているだけだった。勝ち負けにはあまり関心を持たず、むしろ負け続けることに慣れてしまっていた。だけど、今日の勝利は違う。自分が本当に勝てる可能性があると実感できた瞬間だった。 「どう?やっぱり勝つと楽しいでしょ?」 美月が笑顔で聞いてくる。僕は少し照れくさくなりながらも、うなずいた。 「まあ……悪くないな」 そう答えたものの、内心はもっと興奮していた。勝利の味は思っていた以上に甘美なものだった。そして、それが僕に新たな感覚をもたらしてくれた。 「瀬戸くん、今の動き良かったよ!特に資源の管理が完璧だったし、最後の攻め方もばっちりだったね!」 美月は僕のプレイを細かく褒めてくれる。彼女の言葉が僕の自信を少しずつ膨らませていくのを感じた。 「ありがとう。でも、まだまだだな」 僕は謙遜しながら答えたが、本音を言えば、このままもっと上手くなりたいと思い始めていた。勝つことの楽しさを知ってしまった以上、次も勝ちたいという欲が湧いてきたのだ。 それに、美月のようにゲームを心から楽しむことができるようになれば、もっと楽しい時間が増えるのかもしれない。そんな期待が、少しずつ僕の中に芽生え始めていた。 次のゲームが始まる。僕はこれまで以上に集中して駒を動かした。まだまだ美月のように冷静な判断はできないが、それでも自分なりに戦略を考え、資源を使うタイミングを見極めようとする。 「もう少し慎重に……焦らずに……」 自分に言い聞かせながら、次の手を考える。ゲームそのものが楽しくなってきたのか、時間が過ぎるのが早く感じられた。そして、それは僕にとって大きな変化だった。 今まではただ流されるようにゲームをしていた僕が、少しでも勝つために頭を使っている。この変化が、自分でも驚くほど心地よかった。 「瀬戸くん、次もその調子で頑張ってね!」 美月が笑顔で声をかけてくる。彼女の応援が、今はプレッシャーではなく、僕を支えてくれるものだと感じられるようになっていた。 「うん、ありがとう」 僕は笑顔で答え、次のゲームに向けて心を落ち着けた。まだまだ勝てるとは限らないが、今はそれでもいいと思える
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