第三章 戦略の第一歩

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「今日のゲームはチーム戦だよ、瀬戸くん!」 美月が明るい声で僕に知らせた。今までずっと個人戦ばかりだったが、今日はチーム戦だという。部員たちが何人かのグループに分かれて、協力しながら勝利を目指す形式だ。 「チーム戦か……」 僕は少し緊張しながらも、期待に胸を膨らませていた。個人戦では何度も負け続けてきたが、チームとして戦うなら違った楽しさがあるかもしれない。それに、自分一人で勝ち負けにこだわるよりも、仲間と力を合わせることが重要になる。 「瀬戸くん、今日は私たちが同じチームだよ!」 美月は相変わらずの元気さでそう言い、僕の隣に座った。もう一人のメンバーは、落ち着いた雰囲気の山本さんだ。山本さんとは以前対戦したことがあり、その冷静で計算されたプレイが印象に残っていた。 「よろしくね、瀬戸くん。今回は一緒に勝ちを狙おう」 山本さんは静かに微笑みながらそう言った。彼の落ち着いた態度に、少し心が和らいだ。 ゲームが始まると、僕たちはそれぞれの役割を分担しながら進めていった。このゲームは、資源を効率よく管理し、他のチームよりも早くゴールに到達することが目的だ。個人戦では自分の手持ちだけに集中していたが、チーム戦ではお互いの資源を上手く共有し、効率的に進めることが重要になる。 「ここで資源を使うのはまだ早いかも」 山本さんが冷静にアドバイスをくれる。その言葉を聞いて、僕は焦らずに判断を下した。今まではすぐに手を出してしまいがちだったが、チーム戦では無駄な動きをしないことが大切だということが少しずつ分かってきた。 「瀬戸くん、いい判断だよ! そのまま進めて!」 美月も明るく励ましてくれる。彼女のエネルギッシュな応援は、いつも僕を少しだけ勇気づけてくれる。今回は一緒に戦っているということもあり、彼女の言葉がさらに心強く感じられた。 ゲーム中盤、僕たちのチームは順調に進んでいた。山本さんの冷静な計算、美月のポジティブなエネルギー、そして僕自身も少しずつ流れに乗り始めていた。これまでの個人戦では感じられなかった一体感が、チーム戦では感じられた。 「ここで一気に攻めるべきだな」 山本さんが静かに言うと、僕たちは一斉に動き出した。今まで自分一人でどうにかしようとしていたときとは違い、チームとして連携を取ることで、ゲームの進行がスムーズに進んでいくのを感じた。 「いける、勝てるかもしれない!」 僕は心の中でそう叫びながら、全力でチームのために動いた。チーム戦では、個々の力だけでなく、仲間との連携が重要だ。自分一人では成し得ないことも、チームメイトの力を借りることで実現できる。そんな当たり前のことに気づきながらも、その感覚が新鮮で楽しかった。 ゲーム終盤、僕たちのチームは他のチームをリードしていた。あと少しでゴールに到達するというところで、緊張感が高まった。 「ここで最後の一手だよ、瀬戸くん!」 美月が声をかけてくる。僕は慎重に手を進め、チーム全員の協力のもと、ついにゴールに到達した。 「やった! 勝った!」 美月が嬉しそうに叫び、山本さんも満足そうに微笑んでいる。僕は少し遅れて、その喜びを実感した。チームとしての勝利は、個人戦での勝利とはまったく違う感覚だった。自分一人では成し得なかった成果が、仲間と力を合わせることで手に入った。 「瀬戸くん、すごく良い動きだったね!」 美月が嬉しそうに僕に声をかけてくれた。僕は少し照れながらも、彼女に感謝の言葉を返した。 「ありがとう。でも、みんなのおかげだよ」 そう言いながら、僕は初めてチームワークの大切さを実感した。これまで自分の力だけでなんとかしようとしていたけれど、チーム戦ではそれが通用しない。仲間との協力があってこそ、勝利が成り立つのだ。 その日のゲームが終わった後、僕は部室を出るときにふと立ち止まり、振り返った。美月や山本さん、そして他の部員たちも、ゲームを楽しんでいる姿が目に映った。 「ゲームって、こういう楽しさもあるんだな……」 僕は心の中でそう思いながら、これまでの自分とは少し違う感覚を覚えた。ゲームそのものの楽しさだけでなく、仲間と一緒に戦うことの楽しさ。僕はこの部活動の本当の楽しさを、少しずつ理解し始めていた。 そして、次のチーム戦にも、また参加したいという気持ちが自然と湧いてきた。
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