第三章 戦略の第一歩

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「やった、勝った!」 僕は思わずガッツポーズを取った。個人戦での勝利は、これまでの努力が少しずつ実を結び始めている証拠だ。ゲームが終わると、美月がすぐに駆け寄ってきた。 「瀬戸くん、すごいよ! 今日は調子がいいね!」 彼女は満面の笑みで僕を褒めてくれた。確かに、ここ最近、勝つことができるようになってきている。以前はただ美月の言う通りに動いていただけだったが、今は自分の戦略を考え、相手の動きを読んで対応することができるようになった。 しかし、勝利の喜びも束の間、次の試合では一転して大きな敗北を喫した。相手の巧妙な戦術に翻弄され、まったく対抗できなかった。 「……こんなに簡単に負けるものか」 試合が終わった後、僕はしばらく呆然とゲーム盤を見つめていた。勝てると思っていた自信が、一瞬で崩れ去った瞬間だった。負けるというのは悔しいものだ。だが、今回の負けは特に重かった。 美月はそんな僕にすぐに駆け寄って励ましてくれるわけではなかった。むしろ、少し離れた場所から見守るような態度だった。彼女もまた、僕が今どう感じているかを理解しているのだろう。 その夜、帰り道で一人、今日の試合について振り返っていた。 「一回勝ったからって調子に乗るなってことか……」 僕は思わず苦笑いを浮かべた。勝った時の喜びと負けた時の悔しさ、その両方を味わうことで、ゲームの奥深さに初めて気づいたような気がした。 「まだまだ自分は未熟だな」 負けを受け入れることで、自分の弱さを認めることができた。これまでは勝つか負けるかの二択しか見えていなかったが、ゲームというのはそんなに単純なものではない。勝つためには、もっと深く考え、先を読む必要がある。相手の一手先、二手先を読みながら、自分の手を決める。そんな複雑な駆け引きが、ゲームの本質なのだと感じ始めていた。 それでも、ただ落ち込むだけではない。 「もっと上手くなりたい」 自然とそんな気持ちが湧き上がってきた。負けたことが悔しいからこそ、次は勝ちたい。そして勝つためには、もっと練習し、戦略を考える必要がある。 「次はどう攻めるべきだろうか……」 僕は自分なりにこれまでの試合を振り返り、勝利に繋がる可能性のある戦略を考え始めた。相手がどう動いてくるか、次はどんな手を打てばいいか。これまであまり意識してこなかった「先読み」という概念が、頭の中で少しずつ形になっていく。 翌日の部活動で、美月がいつもの笑顔で声をかけてきた。 「瀬戸くん、昨日の試合どうだった?」 彼女の言葉には、特別な感情が込められていない。まるで日常の一コマのように、自然なトーンで話しかけてくる。 「うん、勝ったり負けたりだった。でも、負けた時の方が色々と考えることができたかな」 僕は正直に答えた。勝利の瞬間も確かに嬉しいが、それ以上に大きな敗北が、僕にとっては成長のきっかけとなったことを伝えたかった。 「そっか、それは良いことだね! 負けて学ぶことって、結構多いよね」 美月もまた、同じようなことを感じているのかもしれない。彼女はいつも楽しそうにゲームをしているが、その裏には確かな戦略と経験がある。僕もそんな風に、ただ勝つことだけを目標にするのではなく、ゲーム全体を楽しみながら成長していきたいと思った。 その日の試合は、またしても負けてしまった。だが、以前のようにただ悔しいという感情ではなく、次にどうすれば勝てるかを考えることができるようになっていた。 「次は、もっと上手くやる」 心の中でそう誓い、僕は次の戦略を考えながら帰路に着いた。勝ち負けだけでなく、ゲームそのものの楽しさを感じるようになった今、僕はさらに強くなれるはずだ。 「もっと深く考えて、もっと楽しむんだ」 ゲームの奥深さに気づいたことで、僕は一歩ずつ成長している自分を感じていた。そして、その成長を支えてくれる美月や他の部員たちにも感謝の気持ちを持ちつつ、僕はこれからも挑戦を続けていくことを決意した。
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