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次の日、僕は放課後になるとすぐに帰ろうとした。昨日の昼休みのことを思い出すと、どうにも居心地が悪くて、できればあのボードゲーム部には二度と足を踏み入れたくなかった。
「瀬戸くん、帰るの?」
…まずい。背後から聞き覚えのある声が響いてきた。振り返ると、案の定、美月がにっこりと微笑んでいる。
「えっと…今日はちょっと用事があって」
「へえ、どんな用事?」
逃げ場なし。僕は適当に言い訳を作ろうとしたが、頭の中が真っ白になってしまう。そんな僕を見て、美月は一瞬だけ何かを考えた後、さらに近づいてきた。
「昨日、約束したじゃない。今日はちゃんとゲームやるんでしょ?」
「いや、僕、そんなつもりじゃ…」
「ほら、行こっ!」
僕の返事を待たず、美月は僕の腕を引っ張って強引に校舎の奥へと連れて行く。力強い。これが人気者の強引さというやつか。
部室に到着すると、昨日と同じように数人の部員たちがゲームに興じていた。僕が入ると、軽く挨拶されるものの、みんなそれぞれのゲームに集中している。そんな中、美月だけが僕を熱心に勧誘してくる。
「今日は簡単なゲームからやってみようよ!」
「いや、昨日も言ったけど、僕はあんまりゲームとか得意じゃなくて…」
「大丈夫!誰だって最初は初心者なんだからさ!」
美月はまるで僕の言葉をまったく聞いていないかのように笑顔を見せる。その勢いに押されて、僕は仕方なく椅子に座る。
「まずはこれ、どう?」
彼女が出してきたのは、パッと見てシンプルそうなボードゲーム。駒もカードも少ないし、これはもしかしたら僕でもできるかもしれない。少しだけ安心しながら、ルール説明を聞き始める。
「このゲームはね、プレイヤーが探検家になって、宝を見つけるのが目的なんだよ」
「へえ…」
「ただし、探検の途中で罠やモンスターが出てくるから、それを回避しながら進んでいくの」
なるほど、探検家として冒険するゲームか。少なくとも複雑な戦略を考える必要はなさそうだし、僕でもなんとかなるんじゃないか。
「じゃあ、早速やってみよう!」
美月の掛け声と共に、僕は駒を動かし始めた。最初の数ターンは順調に進んでいった。罠も避けられたし、モンスターもなんとかやり過ごした。
「ね、楽しいでしょ?」
美月が嬉しそうに僕に問いかける。確かに、そこまで難しくはないし、ちょっとしたスリルがある。僕は頷いた。
「うん、まあ、悪くはないかも」
「でしょ!これで少しずつコツを掴んでいけば、もっと面白くなるよ!」
なんだか美月がどんどん楽しそうになってきているのが伝わってくる。彼女のエネルギーに圧倒されつつも、僕はゲームを続けた。しかし、次のターンで事件が起こった。
「瀬戸くん、次の選択だけど、こっちの道を行くと宝があるかもしれないけど、危険なモンスターが潜んでるらしいよ」
「うーん、それはちょっと怖いな…」
「でも、こっちの道だと安全だけど、宝が全然ないんだよね」
選択肢が二つ。どちらを選んでも、あまり良い結果が期待できない。僕はしばらく考えたが、結局安全な道を選ぶことにした。
「じゃあ、安全な方で…」
「えー、それじゃ面白くないよ!」
美月が急に不満そうな声を上げた。僕は驚いて彼女を見たが、彼女は真剣な顔で僕を見つめている。
「こういう時こそ、冒険しないと!リスクを取らないと、何も得られないんだよ!」
「でも、リスクを取ると失敗する可能性があるし…」
「それでも、挑戦することに意味があるんだよ!」
なぜか熱く語り始めた美月に、僕は圧倒されてしまった。確かに彼女の言うことは一理ある。挑戦しなければ、得られるものも少ない。だけど、僕はただゲームを楽しもうとしているだけで、そんなに真剣に考えるつもりはなかった。
「…わかったよ。じゃあ、危険な方に行く」
「そうそう!それでこそ瀬戸くんだよ!」
なんだか彼女のペースに完全に巻き込まれてしまっている自分がいた。結局、僕はその後も次々とリスクを取らされ、結果的にはボロ負けした。でも、美月はなぜか満足そうだった。
「これで、もっとゲームが楽しくなってくるよ!次も頑張ろうね!」
僕はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。また次も…?どうやら、このしつこい勧誘はまだまだ続きそうだ。
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