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「瀬戸、今日もやってるなぁ!」
その日も部活が始まると同時に、先輩の高橋さんがニヤリと笑って声をかけてきた。高橋さんは、ボードゲーム部のエースと呼ばれている。特にゲームの戦略には定評があり、負け知らずだという噂も聞いたことがある。僕は彼の一言一言に緊張しながらもうなずいた。
「今日はお前、俺と対戦してみるか?」
「え……僕がですか?」
いきなりの挑戦に、僕は目を丸くした。まだ勝率は微妙だし、正直高橋さん相手には勝てる気が全くしない。
「お前、最近ちょっと勝つようになってきたんだろ? なら俺が手取り足取り、戦略ってやつを教えてやるよ!」
「手取り足取り……?」
その表現に引っかかるものを感じつつ、僕は席に着いた。対戦相手が高橋さんというのは、ボードゲーム部でのある種の洗礼みたいなものらしい。部員たちはみんな一度は彼と対戦し、負けてアドバイスをもらいながら成長していくという。
「まずは資源管理だな。お前、いつも無駄に資源使いすぎなんだよ」
そう言いながら、高橋さんは僕のカードをひとつひとつチェックし始めた。
「こっちのカード、無駄遣いしてるのわかるか? これを今のタイミングで使うのは損だ。もっと後の展開を見据えろ。あと、相手の動きにももっと敏感になれよ。相手が何を狙っているかを予測しながら動けっての!」
「そ、そうなんですね……」
言われてみればその通りだ。僕は今まで目の前の自分の動きだけに集中しすぎて、相手がどう動いてくるかなんて全然考えていなかった。高橋さんの一言一言が、僕の中でパズルのピースのようにハマっていく。
「あと、瀬戸くん。焦るとすぐにやっちゃいけないことしちゃうんだよ」
横で聞いていた美月も加わる。
「はい、いつもミスしちゃうんです……」
そう認めざるを得なかった。これまで何度も、美月の「その調子!」という言葉にプレッシャーを感じ、焦って大きなミスを重ねてきたのだから。
「でもまぁ、最初はそんなもんさ。焦るのは誰だって一緒。でもな、ゲームってのは焦ったやつが負けるもんなんだよ」
高橋さんは笑いながら、さらに続けた。
「お前がここでしっかり学べば、次はもっと楽に勝てるぞ。今は負けることを怖がらずに、どんどん挑戦しろ!」
その言葉に僕は少しだけ勇気をもらった。確かに、負けることは悔しいけれど、それを通して学んでいけるなら、それほど悪いことでもないのかもしれない。
その後、他の部員たちとも対戦する機会が増えた。最初はあまり話すこともなかった彼らとも、ゲームを通じて自然と会話が生まれるようになった。
「瀬戸くん、今日は何の戦略でいく?」
「いやー、まだ試行錯誤中だけどね……」
こうして少しずつ、部員たちとの距離が縮まっていくのを感じた。僕は今まで、ただ一人でゲームに向き合っていた気がする。でも、部員たちの多様な戦術や個性的なプレイスタイルを知ることで、ゲームそのものがさらに面白くなってきた。
特に、仲間たちの個性的な戦術にはいつも驚かされる。高橋さんは「勝利至上主義」で、何があっても勝つことを目的にしているが、他の先輩、例えば石井さんは「負けてもいいから奇抜な作戦で目立ちたい」という少し変わったプレイスタイルを持っている。
「瀬戸くん、次はこれでいこうよ!」
石井さんの提案する戦略は、正直無茶苦茶だった。だが、そんな彼のやり方もまた、ボードゲームの楽しさの一部だということに気づいた。
こうしてゲームを通じて、僕は少しずつ部員たちとの絆を深めていった。以前は「ただ勝ちたい」「負けたくない」と思っていたが、今では「仲間たちと一緒に楽しみたい」という気持ちが芽生えている。
「瀬戸くん、次は私たちペアでいこうね!」
美月が嬉しそうに言ってきた。ペアを組むことが多くなった彼女との信頼関係も、少しずつ深まっている気がする。ゲームを通じて築かれたこの関係が、僕にとって何よりの財産になっているのかもしれない。
「よし、次はどう攻める?」
高橋さんの言葉に僕はニヤリと笑って答えた。
「次はもう、負けませんよ!」
仲間たちと一緒に、ゲームの深みに足を踏み入れながら、僕はますますボードゲームの世界に引き込まれていった。勝利の喜び、そして仲間たちとの絆が、僕をさらに成長させていく。そして、これからも僕は挑戦を続けていくのだ。
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