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運転再開を待ち侘びた人々が続々と改札口を通っていく中、私は未だに迷っていた。
どうする…、逃げる…?
私から連絡したくせに?
でも所詮SNS上のやり取り。
逃げたってバレやしない。
こういう時、自分の中の良心や変な真面目さが邪魔をする。
とりあえずここにいたら邪魔になるから立ち上がって、それから……
「ー…おねーさんがDMくれた人?」
「っ、………あ」
後ろから声が聞こえる。
それは間違いなく、私に向けてだ。
往生際悪くぐちゃぐちゃと考えていた事が、その声で全て掻き消された。
「おねーさん」
きゅ、と服の袖を掴まれて後ろに軽く引かれる。
その思ったより優しそうな声や、思わずドキリとしてしまうような仕草に顔が熱くなってくる。
恐る恐る、後ろにいるであろう彼の方へ体ごと振り返った。
「やっとこっち向いてくれた。こんばんは、おねーさん」
「こ、こんばん、は…」
俯いたまま振り返って徐々に上を見上げると、謎に包まれていた彼の姿が視界に入る。
私の頭1個分くらい高い身長に細身の体で、髪真っ黒で今どきの子らしいマッシュっぽい髪型。
顔はマスクをしているけど、それでも分かるイケメンな感じ。
本当にこの人が裏アカ男子なの?
私の完全な偏見だけど、こういう人はわざわざこんな事しないと思っていた。
おじさんみたいな人が来られても困ったけど、こんなに格好いい人が来られても困る。
「あ……あの」
「えっ、ていうかおねーさん凄い濡れてない?」
大きな瞳が目尻を下げてニコニコと笑う笑顔が眩しくて、とりあえず何か喋ろうと何とか声を出すも彼に遮られてしまった。
「え、あぁ…傘持ってきてなくて…」
そう軽く説明すると、「えぇ風邪ひいちゃうよ〜?女の子は体冷やしちゃ駄目だよ」と背負っていたリュックからタオルを引っ張り出して、それを何の迷いもなく私に渡してきた。
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