ぜろ

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「おねーさん、こっちおいで?」 その猫撫で声のような甘い声に両手を広げ誘われてしまえば、催眠術にでもかかったみたいに勝手に足が動く。 「可愛い可愛いおねーさん。今日も俺がさいっこうにドロドロに甘やかしてあげるね」 本名も歳も、普段何をしているのかも、素性を一切知らない。 知っている事といえばSNS上で名乗っている"チルくん"という名前と、ふわふわとした可愛らしい雰囲気を醸し出す中性的な顔立ちの男の子、それくらいだ。 ただ歳に関しては勝手な推測だけど年下な気がする。 でもそれは私も同じで、正真正銘こういう事をする為だけに繋がった関係。 好きとか嫌いとか、付き合うとか別れるとかそんなまどろっこしい事を全て省いた都合のいい関係。 色んな事に疲れ果てた私にとっては彼が救世主、ヒーローのようにさえ見えた。 所詮その場凌ぎみたいな事を繰り返していたら一生幸せになんてなれないって、側から見たらそう思われるかもしれないけど、今までが幸せと感じた事がなかった私にとっては彼と出会って以来、これが満たされる、これが幸せって事なのかと思うくらいには救われていた。 広げられた両手に収まるように彼の胸に飛び込む。 私を待っていたみたいに両手が私の背中に両手が回ってそのまま抱き寄せられた。 ふわりと香る甘い香りと温かい体温で、緊張や疲労がほぐれていくのが分かる。 「大丈夫、おねーさんはなーんもしなくていいんだよ。ふかふかのベッドに体を預けて俺の声に、俺の手に集中して?」 ちゅ、と触れるだけのキスをされると体勢を変えて私をベッドへとそっと寝かせる。 そして私の体に跨って優しく微笑むと、頭、髪の毛、頬の順に手を滑らせていく。 「ボロボロのおねーさんがキラッキラに輝くまで俺が癒してあげるからね。だから、全てを俺に委ねて?」
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