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「チ…チル、くん…?」
「…甘えられたらめんどくさくない?」
チルくんは少し俯き気味に私から視線を逸らしてポツリと呟く。
「えっ?面倒…?どうして?」
「だって、この関係に俺の意思なんて必要なくない?みんなそれぞれ目的があって俺に会いに来てくれてるんだもん。俺が俺の意思で勝手な事したらおかしいでしょ?」
「チルくん……」
やっぱり私の思っていた通りだった。
チルくんはわざと自分を押し殺して相手を優先にしている。
ただそれをチルくんが望んでやっているのか真意は分からないけど…
どっちにしたって、そう話すチルくんの顔はずっと悲しそうな表情をしていて胸が痛む。
「だから駄目…出来ない。俺がおねーさんに甘えるなんて…おかしいよ…、だって今日はおねーさんが俺に甘える日なんだよ。だから…」
「……っ、…違うよチルくん」
チルくんが喋れば喋るほど表情は暗くなり声も小さく掠れていく。
まるで自分に言い聞かせているようなチルくんを見ていると、そんな気持ちにさせてしまったと言う申し訳なさでいっぱいになって、手をより一層強く握り返した。
「ちがう…?なにが?」
「チルくんは自分の事"みんなの"チルくんって言ってたけど、それは違うと思う。チルくんは物でも道具でも玩具でもないでしょ?みんなの為のチルくんじゃなくて、自分があってこそのチルくんだよ。…だからそんな事考えなくていいんだよ」
「……なに、それ。俺わかんないよ。だって今までそうやって生きてきたんだもん。それに誰もそれがおかしいとか言われた事ない。これが俺の普通だよ?」
これ以上チルくんの悲しそうな顔を見ていられなくて私の気持ちをぶつけてみたけど、やはりチルくんにはあまり伝わっていないようだった。
私に言われてムキになったり、意地を張っているわけでも嘘をついている様子もない。
本当にチルくんにとってこれが"普通"なんだと、聞き返さなくても表情を見れば分かった。
今日見た中で1番困っている顔をしている。
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