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「………は」
「あ……」
酷く疲れた体に鞭打って急いで帰っている最中、見知った声が前方から聞こえてきて反射的に顔を上げると、今1番会いたかった彼氏だった。
ただ、隣には私の知らない女性がいて彼に腕を絡ませていた。
思わず立ち止まって声を漏らせば、彼も私に気づいたのか明らかに動揺したように目を丸くさせて立ち止まった。
相手の女性は突然止まった彼を不思議そうに見つめた後、その視線の先の私を見た。
「だれー?」
「っえ、あー……」
……そういう…こと…
もう全てを察した私は怒りや悲しみを通り越して無の境地だった。
もう、どうでもいい。一気にその言葉まで行き着いてしまった。
彼は何とか誤魔化そうと言葉を探しながら歯切れ悪く隣の女性に説明をしようとしていた。
そんな姿を見ていると彼への想いが益々と冷めていった。
そう思い始めたら、こんな所で無駄な時間を費やしている暇はない。
いつまでもハッキリしない情けない彼を一瞥した後、隣の女性の方を向いて静かに呟いた。
「大学の時の同級生で、ただの知り合いです。すみません、引き止める感じになってしまって」
淡々とそう口にすれば、彼女の方は特に疑いもせず納得したようで「なんだ、それなら早く言ってくれればいいのに」と彼の肩を小突いた。
一方の彼はと言うと、私の言葉に目を見開き固まっていた。
まさか私の口からそんな他人行儀なセリフが出てくると思わなかったのか、とても驚いているように見えた。
正直、この人と同棲を続けてゆくゆくは結婚、なんてのは想像は出来なかった。
やはり今の環境が悪すぎるから。
いつかフラれてしまうんだろうなって思っていたけど、こんな形で呆気なく終わってしまうのか。
そっか、別に彼女がいたんだ。
見た感じ、最近付き合ったばかりではなさそうな独特の雰囲気。
こっちに来て初めて出来た彼氏。
1年も続かなかったし、振り返れば思い出がほとんどない。
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