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「ふふふ、照れてる。かわい。」
またそうやってからかわれたから大袈裟に上体をそらし、よけるような真似をして見せた。
グラッとボートが揺れる。
「うわっっ」
ボートが左右に揺れてエミリの小さな手のひらが俺の両足の太ももの辺りを両手でグニッと掴んてきた。細い指先が太ももに食い込みゾクっとする…。
「うっっ」
思わず変な声が出た。心臓が口から飛び出すかと思った。
太ももの内側がゾワッとして鳥肌がたち、俺の下半身がゾクゾクと沸き立つ気がした。
マジでヤバいんだって。こういうの…。
「わー、こわっっ。なんかスリリングだね。」
驚いたエミリの目が大きくなる。
「大丈夫か?」
「うん、平気。なんか、遊園地のアトラクションみたいだね。」
「マジで危ないから。ちゃんとじっとしてて…」
と言いつつ、疲れて腕はもうすでにパンパン。ボートが池の真ん中辺りで止まった。
「ふぅー。ちょっと休憩…」
オールを掴んだまま止まって深呼吸。気持ちをとりあえず落ち着かせた。
この心臓のドキドキは多分、船を漕いでたせいだけじゃ…ない…。
「おでこ、汗かいてるよ…」
エミリの手が延びてきて俺のおでこの汗をハンカチでそっと拭った。
腕の力を抜いて息を整え休んでいた無防備な俺が油断した次の瞬間、エミリの顔が隙をつくようにしてまた近づいた。
「ん…?」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。その唇がフワッと俺の唇に触れた。疲れて脳まで停止していた俺は思わずそのまま固まった。
「隙あり…」
イタズラな笑みを浮かべてぽーっとする俺にエミリが笑顔でそう言った。
え…?いま、キス、された…?
「またしちゃった。」
「は?しちゃったってさ…」
「だって。一生懸命でなんかかっこいいんだもん」
「……」
オールを握るその手を掴まれ、座ったまま動けない俺の顔はただ呆然としてる。
下から見上げてくるエミリのその顔がおねだりしてくる子犬みたいに思えた。
「だから…、危ないからやめろって…」
やっと誤魔化してそれだけ言うと、また手で漕いで元の船着き場に急いで向かう。
「もしかして、照れてる?顔、真っ赤。」
その返事はしなかった。
顔が熱い俺を見て楽しそうに笑うエミリの顔も赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
「ほら、危ないからちゃんと座ってて?」
「うん。ねぇ、宮野?本当に大好き…。宮野は?まだ?」
俺は答えなかった。
はずかしすぎて急いで船着き場に戻る。
この感覚が好きってことなのかどうなのかなんて、俺にもわからない。
けど、大好きだなんて言われるのがこんなにも擽ったいなんて…。
知らなかった…。
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