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小さな嘘
「はじめまして。よろしくね。」
「あ、あぁ、こちらこそ、よろしく。」
「なんか、緊張してる?」
えぇ、してますとも、あなたのような美しい人を目の前にしたら、当然、そうなる…。あなたのせいだ、なんて言えない。
「緊張、するよね、なんかこういうの…」
なんて言って誤魔化してる俺は、隣から香ってくるバラみたいないい匂いにクラクラして眩暈がしそうだった。
眩しすぎて隣をちゃんと見れない。彼女のその綺麗過ぎる目は目眩がしそうでちゃんとみれない…。
ゴクリと飲み込む自分の唾の音がうるさく感じた。
ステージの上で繰り広げられるパフォーマンスの数々も、沢山のお祝いの言葉も、何も入ってこない。
いま俺に入ってくるのは彼女の息づかいの音と、いい匂いのするその香りと、眩しすぎて目が眩む君の横顔の景色だけだ。
だから、忘れてた。
エミリのことなんか…。
「なんか、ワクワクするね。
出会いの季節。いい出会いがあるといいな。」
「いい出会い?」
「うん。春だし…。あ、今、あたしたち出会ったね。この出会いがいい出会いだといいけど…?」
「え?あ、あぁ…」
なんだなんだ?いまのはなんだ?その発言、どういう意味?
一気に緊張が走り変な汗が吹き出る。
彼女はそんな俺なんかお構いなしにゆっくりと語りながらゆっくりと笑う。
「友達に、なってくれる?」
「へ?」
あぁ、爽か、そうだよな。友達、だよな…。
「大学に入って、はじめての友達。」
「俺でよければ…。全然。」
「よかった。誰もいないの。知り合い。」
穏やかに微笑む。もう、この微笑みだけでイケそうだ…。
「そう、なんだ…。」
「恋人もほしいし。あなたはもちろんいるんでしょ?」
「いや、いないよ、そんなの…。」
「へぇ。いそうに見えるのに…。」
クスクス笑う彼女がどういう意味で言ったのかわからない。
けど、勝手に勘違いしたくなる。
勝手に期待したくなる…。
「俺も、ほしい。恋人…。」
前のめりでついそんな風に彼女に言ってた。顔を赤くして目をぱちくりさせてる彼女をもう、俺は意識せずにはいられない…。
どうやら俺は、その、一瞬で恋に落ちたみたいだ…。
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