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返却不可なお試し利用
「あたしね、本気だよ?宮野のこと。」
さっきまでふざけた顔してたエミリが急に真顔でさらっとそう言ってくる。エミリが一瞬だけ真剣な顔でこっちをじっと見つめてきた。
ズキン…。
その顔に俺の心臓が鳴る。
あわてて目の前のアイスコーヒーを引き寄せストローを咥えようとしたけれど、ストローがグラスの中でくるくる回って逃げるからなかなか俺の口がストローをとらえられずにいた。
明らかに動揺してるぞ。俺…。
「どぎまぎしちゃって。大丈夫?ストローが鼻の穴に刺さりそうだけど?」
肘をついて自分もストローをつまみ口に咥えながら、こっちを除き込むようにして楽しそうにそんな俺を見つめてくる。
「ゴホン。」
意味なく変な咳払いをした。
「もしかしてさ…。宮野、今まで付き合ったことないとか?女の子と。」
「ゲホゲホッッ。」
今度はおもいっきり噎せた。手の甲でグイッと唇を拭う。
「ふふふ。当たりだっっ。」
肘をつき手のひらに顎をのせてニコニコしてこっちを見つめてくるエミリにもう、俺は完全に遊ばれてる。
「じゃあさ、キスもまだ?」
「答えない。」
「あー、まだなんだ。」
「だから答えない。」
するとエミリが急に窓の外を指差した。
「あ!!」
「え??」
思わずつられて俺もそっちに気を取られた瞬間、エミリが俺の開いた口の唇のすぐ横にそっと指先で触れた。
え??な、なに…?
「チュッ。なんてね。なにビビってンの?指だよ。あー。これ、もしかしてファーストキスだった?」
テヘヘ。って笑ってる。
なんだよこれ。もう、心臓が壊れそうだ…。
「ふざけんなーっ」
「照れてる、可愛い。でもやっぱり怒らないよね。宮野、優しいから」
「え?」
「思った通りだ。宮野はやっぱり優しい。だから断れないよ。」
「なんだよ、それ。」
「すぐわかった。宮野がそう言う人だって。」
「え?」
「だから付き合お。1ヶ月でいいから。お試し。断れないでしょ?どうせ。キスもしちゃったし」
「キスなんかじゃねぇだろ、そんなの。勝手に決めんな…」
「ん?嫌なら今すぐ断ってみて?ほらほら、早く!十秒以内ね?ジュウ、キュウ、ハチ…」
おいおい、なんだよ、その強引なやり方…
「んー。えっと…」
今日は断る気満々出来たくせに、完全にエミリのペースにはまった俺は、目の前の彼女を可愛いだなんて、思い始めてる…。
「ゴ、ヨン、サンニイチブー。はい終わり。」
「最後が随分早かったな。」
「はい。タイムオーバーだよ。もう、返却不可です。これから一ヶ月間、あたしは宮野をお試し利用します!」
「え?」
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