狭い世界と運命共同体

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狭い世界と運命共同体

 焼かれる様な暑さと、青々しい匂いを運ぶ涼しい風が吹く季節のこと。  とある島のとある小さな村に、大人しい男の子と元気な女の子が同じ日に生まれた。  そしてそれは小さい島の少ない人口では奇跡に等しく、二人は運命共同体として村の大人達に育てられたのだ。 ―――    小さい頃から一緒にいる二人の性格は正反対だが喧嘩はなく、互いが互いを補い合うといった仲睦まじい関係であり、彼女が僕を遊びに誘っては日暮まで遊び尽くすといった日々が続いていた。    夏に二人がよく遊ぶのは、星空の様にまるで手の届かない水平線が、遥か彼方に見える海辺の砂浜。  当時十歳だった僕たちは皮の靴を濡らさないようにと裸足で駆け回り、触ると気持ちの良いポカポカした砂に僕は腰を下ろした。  砂とは別で潮風が香る澄んだ空色の海は、一瞬でも足を踏み入れると心地よい冷たさに暑さを忘る。  そんな海に彼女は、肩まである髪を靡かせながら砂浜を駆け足で過ぎ去り飛び込んだ。  黒く澄んだ瞳が瞼に消え目尻が下がると、頬の赤い彼女は僕の方を向いて微笑む。  そんな愛おしい笑みを浮かべる彼女が水面を蹴る度、彼女の海色の髪上に透明な花弁が咲き乱れたのだ。  太陽の光を反射しているそれは言葉に出来ない程に眩しくて綺麗で、僕の目と心は彼女の全てに奪われていた。    そんな一夏の日常を彼女は心と身体で楽しむが、僕の方は彼女に連れ回されたことで些か身体的な疲労が溜まっていく。  もともと身体が強い訳ではない僕は家の中で本を読むのが好きで、父が近くの大陸から買ってきた本を一日中読み漁っていた。  それでも彼女に連れ去られながら外で過ごす日々は楽しいし、いつも明るく照らしてくれる彼女の笑顔はとても好きだ。  だからこそ、殻に篭っていた僕を連れ出してくれた彼女には感謝しているし、僕にとって彼女は運命共同体という肩書き以上に特別な存在だ。    この時から僕は、彼女のことが好きだったのだろう。    だけど、当時十歳だった僕には好きという感情は少し難しくって。  一緒にいると楽しい、一緒にいたい、一緒にいると安心する、一緒にいるとドキドキする。  そんな言葉でしか、この気持ちの答えを持ち合わせてはいなかった。  
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