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約束の日に僕は
約束の日の前夜のこと。
僕は、彼女にどう言って着いて来て貰うのか悩んでた。
今も、昔も、僕の隣には彼女がいて、それは未来も同じが良くて……。
それはあまりに身勝手な思いだけど、僕の本音で……。
彼女に断られたらと思うと、どうにも心苦しくて……。
そんな気持ちを紛らすために本を読んでいると、気疲れからかぐっすりとした眠りに僕はついていた。
いつもの合図で起床すると、窓を開け顔を覗かせる。
その時、昨夜の僕の頭は彼女で一杯だったからか、その存在に僕の胸は高まり、より近い距離で感じたくなった。
彼女に顔を近づけると、彼女の可愛さに僕の胸の鼓動が高鳴る。
ドキドキしている僕に彼女が可愛い声で、可愛い仕草で驚くものだから、僕の心臓は更に八切れんばかりの速さで鼓動を打った。
ほんの数秒の間彼女と見つめ合っていると彼女は話したいことがあると僕に伝え、二人の思い出が詰まっている砂浜の方へと走り去って行く。
(話したいことって、あのことだよね……。来てくれると嬉しいなぁ。離れたくないなぁ……)
僕はある花を持つと覚悟を決めて、彼女の待つ所へと向かった。
涼しい潮風に背を押されながらゆっくりと、でも確実に。
彼女の所に着くと、僕は彼女の肩に手を置いた。
本当はいつもみたく後ろから抱きつきたかったけど、今は真面目に、真摯に接しなくてはならない。
これは僕たちの未来に関わることだから。
甘ったれた接し方ではだめなのだと。
そう思っていたからこそ、僕は後悔した。
小さい顔を僕に向け、大きくて可愛らしい瞳で見つめるはずの彼女の瞳が曇っていたから。
綺麗だった瞳からは光が消え、闇が侵食していたのだから。
──僕は悲しそうな彼女は見たくない。
──楽しそうにあの頃みたく笑ってて欲しい。
──僕をこの海辺へと初めて連れ出して笑った、あの頃の様に。
だから……。
「海はいいよなぁ……」
どうしようもなく身勝手な僕は、海で遊んでいたあの頃の思い出を蘇らせては呟いたのだ。
その言葉を聴いた彼女は俯く。
「わたしは、こわいわ……」
そう言った彼女は、まるであの頃の様だった。
だから……一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、ついさっきの事を忘れ、昔に戻ったかの様な無邪気さで言葉を交わした。
が、僕はそこでも後悔した。
僕が海の何が怖いのかを聞くと、彼女は泣きじゃくりながら僕と離れるのがこわいと言う。
僕の隣に居たいのだと言う。
僕はそれが、どうしようもなく嬉しかった。
でもそれと同じ位に、自分が馬鹿で愚かだと思った。
だからこそ、不安そうに震えている彼女を自分の胸に抱き寄せて頭を撫でた。
それからの僕は冷静に、感情的な言葉を彼女と交わす。
そこには互いに、嘘偽りのない本心だけが交り合っていた。
彼女の言葉を受け止める度に楽観的だった自分が、彼女の心の蟠りを察することの出来なかった愚かな自分が、許せなくなった。
でも、だからこそ。
これからの彼女には、悲しい思いをさせてしまった三年間を忘れられる様な人生を歩んで欲しい。
でもそこに、出来ればで良い……悲しい思いをさせてしまった僕を、彼女許してくれるのなら。
──僕が彼女の隣に立って幸せにしたい。
──幸せだって一緒に笑える未来を築いていきたい。
それは、どうしようもない僕の我儘だけれど。
それが、僕の本心だから。
そんなどうしようもなく我儘な僕に、彼女は色んな気持ちを吐き出してくれた。
自分はただ明るいだけの彼女じゃなくて、不安になったら悲観的なことを考えてしまうこと。
(僕のことで悩んでくれるなんて、男冥利に尽きるよ)
僕が好きだということ。
(僕も好きだよ)
彼女は僕にふさわしくないと思っていること。
(君以上に素敵な女性はいないよ)
でも、これだけは言わせない。
僕の隣には居られないなんて。
だから僕は、彼女の言葉を遮った。
僕の言葉で塗り替えようとした。
でも僕は、ここでもまた間違えてしまった。
──彼女の瞳からは光と涙が失われていたのだから。
──涙で濡れていたはずの瞳が渇き、闇で包まれていたのだから。
自分の間違えに気づいた瞬間……僕の意識の糸がプツンと解け、自制が効かなくなった。
『………!?』
僕の意識が覚醒した時……彼女の目が、鼻が、耳が、頬が、髪が……抱き合っていた頃よりも、近くに在った。
そして僕の唇には、僕の人生で経験したことのなかった感触があったのだ。
僕はそこで初めて気づいた。
僕が彼女と、初めてのキスをしていることを。
「う、うわぁあっ!!」
気づいた瞬間、僕は羞恥心に駆られ、声を荒げながら大きく後ろに退く。
その時は今までの人生で経験したことが無い位に僕の顔が紅くなっていて、僕の心臓の鼓動は波の音を掻き消す程に大きく鳴っていた。
でも、それ以上に。
顔を紅くしながら涙を流すも、今までの人生の中で一番の笑顔で僕に微笑む君が、とっても、綺麗だった……。
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