1人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ、何これ……?」
異変に気づいたのは翌日。
銀行にお金を預けに行った時だった。
そもそも財布に大金を入れっぱなしで持ち歩くのは危ないし、千円札がいっぱいなのは金額的な意味だけでなく、物理的な枚数もたくさんという状態だ。
だから必要以上のお金は銀行に戻しておこうと考えたのだが……。
ATMの機械に投入した千円札の中に一枚、機械が受け付けてくれないお札が含まれていたのだ。
返ってきたお札を手に取って、改めてよく見てみると、ATMで拒絶されるのも当たり前。明らかに普通の千円札とは異なるものだった。
まず第一に、描かれている人物が違う。髭が生えているのは同じとしても、なぜか眼鏡をかけているし、ネクタイも横長に見えるので棒ネクタイというより蝶ネクタイっぽい。
さらに、左半分に書かれる「千円」が「1000」になっているし、代わりに左上隅の「1000」が「千円」表記。
また、千円札といえば全体的に青色のイメージだが、お札の真ん中が少し一万円札みたいに茶色っぽいのも違和感を覚えた。
裏面の絵柄も富士山が映る湖面ではなく、でかでかと海の波。よく見れば小さく富士山も描かれているので、これは海から富士山を眺める構図だろうか。
「偽札……とも違うのかな?」
これほどはっきり違うのだから、間違い探しなんてレベルは超えている。騙す目的の偽札とは思えなかった。
コンパの終わり際、みんなから集金というバタバタした状況でなければ、私だってその場で「おかしい」と気づいていただろう。
ならばこれは、玩具のお札かもしれない。だとしたら「偽札を掴まされた!」と怒ったり悲しんだりするのは筋違いで……。
誰だか知らないが、昨日のコンパにこれを持ってきて私に渡したのは単なるうっかり。欺こうという悪意は全くなく、その人も本物のお札と間違えただけなのだ。
そう考えると、その人のドジが可笑しくて、なんだか微笑ましい気分になった。
結果的な事実だけ見れば、私が千円損しただけなのだけれど。
最初のコメントを投稿しよう!