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紛らわしい玩具のお札を財布に入れていたら、いずれ私も間違って使いそうになるかもしれない。
かといって、たとえ玩具であってもお札を捨てるのには抵抗があった。
だから帰宅後、財布から抜き出して、机の引き出しの奥へ。
そのまましばらくの間、もうこの千円札については忘れていたのだが……。
一ヶ月以上が過ぎた六月の下旬。
思い出さざるを得ないような出来事に直面する。
何気なく眺めていたネットのニュースの一つに、七月に発行される新紙幣のデザインが載っていたのだ。一万円札と五千円札は、なるほど見たことのない新しい絵柄だったが……。
千円札には既視感があった。
「えっ、これって……!」
驚きながらも冷静に、引き出しから取り出して確認する。
しかし何度見直しても間違いなかった。
クラスコンパで集めた千円札の中の一枚、玩具のお札だと思っていたあれは、まだ流通していない新紙幣だったのだ!
「あのコンパの時点じゃ未来のお札だったのに……。どうして持ってたの……?」
なんだかゾッとしてしまう。肌寒い季節はとっくに終わっているのに、背筋が凍るような寒気を感じるほどだった。
(「奇妙な千円札」完)
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