おおい、おおい。

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 ***  我が町には、ボロボロの廃病院が一つある。  廃病院といっても、何か問題があって潰れたとかそういうわけではない。建物がだいぶ古くなってしまったので別の場所に丸ごと移転してしまったというだけだ。ただ、元の建物が取り壊されずにそのまま残っていて既に三年が経過してしまったため、すっかりお化け屋敷状態になっているというだけである。  当然ながら、本来ならば立ち入り禁止。  大人達に知られたら大目玉を食らうことは間違いなかったが、武田とそのライバルである二組のミサワはまったく気にしていない様子だった。  集まったのは結局、一組も二組も双方ぴったり十人ずつ。  既に主催である武田&ミサワのコンビが昼間の間に仕掛けを行ったようだ。地下の霊安室の扉の前に行き、そこの置かれた箱の中から自分にわりふられた番号が書かれた短冊を一枚取り出して戻ってくる。ルールは至ってシンプルなものである。  ちなみに割り振られた番号、というのは出発する順番と同じ。一番目に出発した人間は一番の番号が書かれた紙を持ってきて、七番目に出発した人間は七番の番号が書かれた紙を持ってくる、といった具合だ。  箱は二つ。一組の人間用と、二組の人間用。それぞれの組の人間が交互に出発し、自分のクラスの箱から短冊を持ってきて戻ってくるのである。 「本当は霊安室の中に箱を置きたかったんだけどな。扉に鍵がかかってて、中に入るのは無理だったわ」 「や、さすがにそれは、失礼だからやめて良かったと思うよ……」  霊安室と言う場所には、ひょっとしたら取り残されている仏さんがいるのかもしれないし、怖いという意味でも申し訳ないという意味でも正直入りたくない場所である。  僕がツッコミを入れると、隣でアッキーがからからと笑った。 「何よ、びびってんの南条?そんなんだからモテないのよー。彼女作りたいならもっとかっこいいとこ見せればあ?」 「おっまえなあ……!」  僕達は一生懸命肝試しのメンバーを集めたが、いかんせんこういう行事に乗っかってくれる女子は稀である。うちのクラスに女子は十八人いたが、結局女子で参加してくれたのはこのアッキーこと秋山一人だけだった。  なお、僕とは幼稚園の時からの幼馴染。こうしてちょいちょいイジってくるのが少しうっとおしい。ムカつくことに、顔だけは可愛い女の子だけれど。  なお、女子にドン引きされてしまったのは二組も同じなのか、二組も女子は春風さん、と呼ばれている小柄な女の子一人だけだった。 「大人に見つかる前に、さっさと終わらせるぞ!俺らはビビリじゃねえって証明するんだ、いいな!」 「お、おお……」  武田は相変わらず気合が入っている。僕は一応拳を突き上げておきながら、万が一びびって帰ったらナニ言われるかわかったもんじゃないな、と思っていた。  全員一人ずつ、くじを引いて番号を決めていく。僕は三番手。最初や最後じゃなくてよかった、とちょっとほっとしたものである。 「そんじゃ、行ってくるわ!」  一番手はアッキーだった。彼女はまったく怖がっていない様子で敬礼をして、懐中電灯を片手にさっさと開けっ放しのガラス戸の中に入っていく。  じゃりじゃりじゃり、と割れたガラスを踏む音が、嫌に響いたような気がした。
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