金木犀の妖精

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その子は何かの病気で病院に入院してる子だったらしくて、あの時は1人で病室に居るのが嫌で娘が食べたいと言ったゼリーを買いに売店に行った母親を探しに病室を抜け出して迷子になっていたんだとか…。 泣きながら「お母さん…」と言いながらとてとて歩いていたその子が何だか放っておけなくなって気付いたら俺はその子に「お母さん探してるの?」と声をかけていた。 その子は泣きながら頷いてそれからお母さんに会いたいと言うので、その子から話しを聞いてその子と手を繋いで売店まで行った。 その子の母親からお礼を言われて、それで今度こそ婆ちゃんのとこに行こうとしたらその子はくいっと俺の手を引っ張ってきて「あげう」と言って俺にビー玉と持っていた分厚い本を渡してきた。 「…ちゃん、おっきくなったらお兄たんのお嫁しゃんになう…!」 「え?」 まだ小さいから滑舌が悪くてその子の名前はよく聞こえなかったけど、その子がそんな事を言ってきたから まぁでも小さい子の言う事だしと思って「ありがと」って返した…ような記憶があるようなないような…。 今思い出すとあの時会った子がはせがわここあに似ている気がしてそこでようやく あぁ、だから会いに来たのか と気付いた。 …小さい時の事なのに…。 今俺は22歳。 今あの子は13歳。 『7年だけ待ってて下さい!』 本当に本気であの子はもう一度俺に会いに来る気だろうか? 「……もし来たら…」 その時は……。 ……いや、どうしたもんかな…。 「愛情に歳の差は関係ない…ねぇ。さて、どうだか……」 自宅の机で本を読みながら苦笑いがこぼれた。 近所に咲いてる金木犀の香りが穏やかに窓から俺に会いに来る秋晴れが綺麗な昼下がりだった。 おわり。
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