金木犀の妖精

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どっかに投げといたラベンダーの香りがするホットアイマスクは何でかベッドの下に転がっていた。 「…誰だよ あんな場所に投げた奴?…俺だ!」 渋々ベッドの下に腕を伸ばしたけどいくら指先をえいえいっ と動かしても全くアイマスクが取れない。 そのうち指がつりそうになって慌ててつる寸前で手を引っ込めようとしたら指先が何か固い物にコツンと当たった。 「なんだ?」 ベッドの下に顔を出して携帯のライトで照らしてみると そこには一冊の本が転がってあった。 取り出してみると いつ買った本か、もしくは誰かに貰った本なのかは分からないが埃まみれになっていたから随分前に(多分)読んだ本だとは思うけど 何の本だったかさっぱり思い出せない。「何だっけこれ?」        学校に行ってから読もうと思い埃を払ってそれを鞄に入れ その後着替えて学校に行ったら「具合悪いのか?」と友人の津賀(つが)に聞かれた。 「(アイマスクの)効果0やん」 「何が?」 「蒸気でアイマスクのやつ…って何でもない。こっちの話し」 「あっそ。何だか分かんねぇけど風邪引いたんなら俺にうつすなよ」 「俺そんな顔色悪い?」 「めっちゃ具合悪い人って顔しとるわ。目ん玉 充血しとるし。何なんお前?」 『風邪引いたなら無理せんようにな』と言わないところは実に津賀らしい。こいつとは高校の時からの友人だけど、結構冷たい奴。 「あ。昨日バイト先のドーナッツ屋で貰ったドーナツあるからお前にもやるわ」 でもちょっとは優しいとこもある本当は良い奴。 「めっちゃ貰ってさ食い切れなくて…。とりあえずジップロックに入れといたから後で食えや」 「おう、ありがと…って多くね?」 てっきり多くて2、3個くらいかと思ってたらLLサイズのジップロックがぱんぱんになるほどドーナッツが詰め込んであるやつを渡されたからびっくりして目を丸くしてると「今週入った新人のバイトの子がドーナッツ焦がしてもうて売り物にならんくて」と津賀は笑って言いながら説明した。 「これ焦げだったのか…」 ココア味のドーナッツかと思ってたわ。
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