新聞配達

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 今朝も、ポストに新聞を入れようとしたら、すでに新聞が配られていた。  先月から、配置換えで受け持つことになった新エリア。でも初日にそこを回った時、契約している家のポストには、すでに新聞が配られていた。  前のエリア担当が間違って回ってしまったのだろう。そう思って販売店に戻ったのだが、すぐに、新聞が届いていないという苦情の電話が入り、俺は現場に引き返した。  新聞を配り終え、俺を叱ろうと待ち構えていた所長に、すでに新聞が配られていたことを話す。すると、途端に所長の顔色青くなった。 「〇さん、まだ…」  つぶやきに、どういうことか尋ねると、所長は、数年前に勤めていたという配達員のことを話してくれた。  俺が働き出す前にここにいたという配達員は、仕事にとても意欲的な人だったらしい。けれどある時病気にかかり、闘病したけれど結局亡くなってしまったそうだ。  奇妙なことが起こるようになったのは、それから程なくしてだという。  新しくそのエリアを任された配達員が現場に着くと、契約している家のポストには、すでに新聞が配られていたというのだ。  前のエリア担当者が間違えて配った。俺がそう思ったようにその人もそう思い、店に戻ってきたのだが、少しして、新聞が届いてないという苦情の電話が入ったという。  所長に、すでに新聞が配られ点いことを話したが、その時は言い訳としか思われなかったらしい。けれど同じことが毎朝起きて、さすがにこれはおかしいという話になり、所長の出した苦肉の案は、配られていてもいいから新聞を置いてこいというものだった。  以来、新聞が届かないという苦情の電話はなくなったが、それでも、すでに新聞が配られていることは多数で、配っている場所が、亡くなった配達員の担当エリアだったため、皆、その人が亡くなって尚、新聞を配達しているのだろうと考えるようになったそうだ。  すでにポストに入っている新聞の幻。聞いた話を思い出し、会ったこともない熱心な配達員さんを少し偲びながら、俺は、本物の新聞をその家のポストに入れた。 新聞配達…完
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