ご挨拶

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 ライナルトさまはそのことを思い出しているのか、肩を震わせていた。  ……ライナルトさま、案外笑うわよね。……うん、彼のことを知っていくのは嬉しい。  陰からこっそり、というわけではないけれど(なにしろ会わない)、殿下の護衛と働いているところを見ていた。 「レオノーレ、こちらへ」 「は、はいっ」  名前で呼ばれてどきりと鼓動が跳ねあがる。  ドキドキと心臓の鼓動が早鐘を打つ。私の両親に婚約を認められた瞬間から、名前で呼ぶようになった。  婚約者に対して親しみを込めて、とのことらしい。その声が甘くて、名前を呼ばれるだけでもときめいてしまう。 「……手を」 「は、はいっ」  すっと手を差し出されて、そっと手を重ねた。  分厚いライナルトさまの手。剣を握ってできたタコが潰れて、厚くなる。それが積み重なったライナルトさまの手。  きゅっと握られて、さらに胸がドキドキする。 「たぶん、この屋敷の中で、一番きみが気に入る場所だ」  ライナルトさまの言葉に首を傾げた。  彼が案内してくれたのは――薬草畑だった。 「こ、これは……!」 「タウンハウスでも作っているんだ。ノイマイヤーの特産品でもある」 「素晴らしいですわ! ああ、なんて立派な薬草……!」 「……やっぱり喜んだ」  質のいい薬を作るには、質のいい薬草を見極める必要がある。こんなに質のいい薬草が栽培できるなんて……! さすがはノイマイヤー侯爵家! うちでも栽培しているけれど、なかなかこんなに良い薬草は栽培できない…… 「結婚したら、ここの薬草は好きに使っていい」 「えっ!?」 「領地でも栽培しているし、ここのはほんの一部だからだな」  こ、これでほんの一部? なんというかもう、さすがとしか言えない。 「……そんなことを言って、私がこの薬草を悪用したらどうするのですか?」 「きみはそんなことをしないだろう?」  当たり前のように言われて驚いた。目を(またた)かせていると、ライナルトさまは「気に入ったか?」と尋ねてきたので、私は満面の笑みを浮かべ、 「もちろん!」  と大きな声で返事をした。
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