パーティ会場

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パーティ会場

 王太子殿下が主催するこのパーティーで、私はとある人をひっそりと眺めていた。  ああ、今日も格好いい。滅多に会える方ではないから、今日はしっかりとこの目に焼き付けて帰らなきゃ。  私、レオノーレ・テレーゼ・クラウノヴィッツは男爵家の令嬢だ。  王太子殿下はなにを思ったのか、男爵令嬢の私にまで招待状を用意してくださった。そんな王太子殿下は、婚約者とともにダンスを楽しんでいる。  私? 私はもちろん壁の花と化している。知り合いもいないし、ダンスに誘ってくれる男性もいないしね。  それでも良いの。  王太子殿下たちのダンスは優雅で見応えがあるし、王太子のために配置されている方々も、殿下の周りで令嬢たちと踊っている。  ……その護衛のひとり、ライナルトさま。  私がひっそりと想っている方。  彼が踊っている姿を、この目にしっかりと! 焼き付ける! それが今日の私の使命!  ダンスが終わり、それぞれ散っていくのを眺めながら、私はほぅ、と小さく息を吐いた。  ――あれ、どうして王太子殿下がこちらに近付いてくるの……?  王太子のヴェルナー殿下。その隣には婚約者のナターリエ公爵令嬢が腕を組んでいた。ナターリエさまは扇子を広げ、口元を隠している。 「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、きみとデートすることすらできないんだよ」 「え? 私、殿下のことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい? さっきから熱い視線を向けていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
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