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不調 *
閉館時間ギリギリでトレニア先生に蹴り出されると、外の陽は落ちていた。どうりで図書館内が薄暗いわけだ。当然、学生たちの夕食の時間も過ぎている。校舎内にある食堂も、あと数分で閉まる時間だった。
イオリーは、また熱中して時間を忘れていたらしい。
慌てて校舎まで走り、地下の食堂の人にお願いして部屋に持ち帰れるようにスープを容器に詰めてもらった。お陰で夕食抜きにならずに済んだ。その夕食が入った袋を肩にかけ、借りた本を胸に抱え直すとイオリーは足早に寮に向かう。図書館で借りた本は、トレニア先生に押し付けられた貴族社会の本と自身の専門分野の魔法薬学の本だ。借りたかった本の殆どが禁帯出で、カウンターでトレニア先生に没収されてしまったのが残念だった。
校舎の外に出て空を見上げると細い月が見えたが、周囲を照らすほどではなく、何度も闇に足を取られそうになった。ハンプニーの田舎にいた頃は、夜道を歩くとき魔法で周囲を照らしていたし、道中一緒になった村人には明るくしてくれてありがとうと感謝されていた。
(……そっか古代魔法使えないと、こんなに不便だったんだなぁ)
首がぎゅっと締まった感触を覚えて指先で喉に触れた。なんだか「早く帰ってこい、と」オルフェに呼ばれているような気がした。
近道をするため草むらを走ったが、かえって時間がかかってしまい、門限ギリギリで扉の内側に滑り込んだ。
「はぁ、よかった。間に合った!」
寮塔に入ると、生徒たちのにぎやかな笑い声が上階から聞こえてくる。それに対して一階の談話室には誰もいなくて、灯りも玄関だけだった。なんだか誰もいない談話室を見ていると少しだけ胸の内側が曇る。学校に来て、一番好きなことができて満たされているのに、物足りない。
それは小さな子供みたいな感情だった。
イオリーはその気持ちに気づかないふりをして頭を振った。そういえば、まだ物置部屋の掃除をしていなかった。イオリーは暗い廊下を進み、部屋の前に立った。すると扉が少しだけ開いていて隙間から灯りが漏れていた。中にいるのは同居猫のルーナだろうが、灯りは誰がつけたのだろう。そう思いながら扉を押し開けた。
「ただいま、ルーナ!」
「……遅い。何時だと思っている」
明るいイオリーの声に、静かで重い声が返ってきた。
「え、なんで、オルフェがいるんだ?」
昨晩、自分が座っていた窓に制服姿のオルフェが腰をかけていた。同居猫のルーナも部屋にいたが、彼女は自分の寝床ではなくオルフェの膝の上で、両手を伸ばし奔放に寛いでいた。
昨日、オルフェにたまには遊びに来て欲しいと言ったが、今日も来てくれるとは思っていなかった。
「えー遊びに来てくれて嬉しいな! 何する?」
「はぁ……君は、何も分かっていないんだな」
イオリーは改めて物置部屋を見渡した。朝、部屋を出たときは、不要な荷物で溢れかえり、かろうじて生活できる程度の汚い部屋だった。けれど今は掃除が行き届き、机もベッドも生活に必要なものが整えられ、暖かな調度品が揃えられている。
真っ白でふかふかな寝具はどこから持ってきたのだろうか。部屋自体は、おそらくどの寮生よりも広く三人くらいは暮らせるし、片付けると誰を招いても恥ずかしくない部屋になった。
「ねぇ、部屋! なんで、綺麗になってるの。ピカピカ、光ってる」
イオリーは扉の近くの勉強机の上に夕食が入った袋と本を置いた。
「私が片付けたからだ」
「え、オルフェが、なんで。いや、嬉しいし、ありがとう……なんだけど」
「こんな部屋で生活したら病気になる。ルーナも可哀想だろう。君は、絶対に片付けないだろうし」
オルフェは猫と触れ合うのに慣れていないのか、全力で好意を示してくれているルーナに指先で触れるだけだった。ふと以前、オルフェが手紙で猫に触りたいと書いていたのを思い出す。なんだか微笑ましく感じて自然と目を細めてしまう。
「病気になるって大げさだなぁ、俺の田舎で使ってた研究室より、この部屋、全然キレイだったし」
イオリーの軽口にピクリとオルフェの眉が動いたのが見えた。どうやら怒っているらしい。早めに謝ってしまおうとイオリーは窓に座っているオルフェの前に立った。
「あーえっとオルフェは寮督生だもんな。門限ギリギリになったのは、悪かったと思っている。寮の規則は大事だ。けど、図書館で本を読んでいたら、つい」
「は、図書館で、本を?」
また、オルフェの眉がびくりと動く。
「い、いや、だって、昨日休館日だったんだ。俺、どうしても本が読みたくて」
「イオリー。君は、今日何があったのか、きちんと理解しているのか」
「何って、怪我した」
「そうだ」
「それで、授業を受けられなかった。貴重な時間を寝て過ごしてしまったのなら、図書館で本を読めば、今日という一日を無駄にせずに……オルフェ?」
「君にとって、今日の出来事は無駄だった、と」
「いや、そうじゃなくて、さ」
火に油という言葉を正しく表現した顔でオルフェはその場に立ち上がる。立ち上がった拍子にルーナは床に飛び降り「もー喧嘩に巻き込まれるのはごめんよ」とばかりに部屋から出て行ってしまった。
「な、オル……どうした? 怒ってる、よな」
「イオリー。君は医務室で先生に何か言われなかったのか」
「何かって、あぁ、熱があるからって」
「そう、それから?」
「……早く寮に帰って寝ることって」
「それで、君は、今まで、どこに、いたって?」
ゆっくりと小さな子供に言い聞かせるように、静かな声でオルフェは告げた。
「図書館、に」
「今すぐに寝なさい」
そのままオルフェは、イオリーを、そばにあるベッドまで追い詰めた。
「えっと、オルフェ」
「そこに座れ」
気圧されたイオリーは、すとんとベッドに腰掛ける。オルフェはイオリーが大人しく従ったのを見ると、部屋のチェストから夜着を取り出しベッドにいるイオリーに投げた。服はイオリーの顔に当たって膝の上に落ちる。
「でも、だって、一日中医務室で寝てたんだ。こんな時間に寝られるわけがない。目だってさえてるし」
「言い訳をするな」
イオリーはオルフェに言われるまま、渋々と寝支度をしてベッドの中に入る。こっそり枕元に借りてきた本を置いたら即座に机の上に戻された。
「やっぱり、熱い。こんな体で、どうして動けるんだ」
乱暴に額に手をあて熱を確認されたあとは、小さな子供みたいに世話を焼かれてしまう。
「ほら、食べなさい」
「オルー、そんなの自分で食べられるよ」
枕元に椅子を置いて座ったオルフェは、夕食のスープをスプーンですくい、イオリーの口元に運んだ。
これでは重病人だ。言われるまま仕方なく差し出されたスプーンから口に含んだとき、思わず口を手で押さえた。苦いだけでそれ以外の味がしなかった。舌に触れた魚の身がざらざらとした砂みたいで飲み込めない。
「うっ……何だこれ……」
「どうした」
「味、変……だ」
目を白黒させていると、オルフェはイオリーが食べたスープを口に入れた。
「傷んでいないし、普通だ」
「嘘だ、苦くて、食べられない。うぅ、気持ち悪い」
「あぁ、そうか。熱が高くて味がしないのか。我慢して食べるんだ、薬が飲めない」
「いい、いらない、ごちそうさま」
イオリーはオルフェの手を押し退けたが、無理やり口元にスープを差し出される。
「ダメだ」
有無を言わせないオルフェに、何度もスプーンを口に運ばれて、無理やりに食べさせられてしまった。食べ終わったあとは、ベッドの上でグッタリと横になってしまう。
「なぁ、オルフェ……」
「なんだ」
「俺、もしかして、すごく具合が悪かったりする?」
「今頃気づいたのか?」
図書館で大好きな本に囲まれて興奮していたときには気づかなかった。ベッドに入り、オルフェに食事の世話をされている間に、自分の体の状態を正しく自覚する。しばらく横になっていたが、イオリーは気分の悪さに我慢できなくなり、ベッドから這い出ると塔の外にある手洗い場まで走っていた。そのまま食べたものを全て吐き出してしまい、近くにあった水桶で口を濯ぐ。
ぐるぐると視界が安定しないまま壁に背を預けていたら、オルフェが手洗い場の入口に立っていた。
「動けるか」
「……あぁ、うん」
オルフェに肩を支えられて、寮の部屋に戻った頃には、体の節々の痛みと頭の重さに逆らえず、再びベッドに倒れこんだ。
オルフェに水と薬を差し出されイオリーは首を横に振った。いまは水も飲みたくない。
「飲めると思う? オル、俺は大丈夫だから、もう部屋に戻って」
「どうして? 君が苦しんでいるのに」
「だから……見られたくない、親友でも、恥ずかしいだろう」
高熱による苦しさだけじゃない。極端に身体から失われた魔力を再生した反動か、体内から無限に生み出される魔力は暴走寸前だった。
このままオルフェと一緒にいれば醜態を晒しそうだった。体調不良による魔力酔いは、今までにも経験があった。子供の頃は、両親がそばで看病してくれたら翌朝には治った。古代魔法を使う人間同士なら魔力酔いの治し方は簡単だ。溢れた魔力を誰かが魔法で引き受ければいい。
治める器が無限に使える古代魔法使いなら、別段難しい行為ではないし、魔力体質の人間は小さい頃によくある不調だった。
(魔力を移す器って……そんなの、今、手元にないし、あぁ、熱い……)
今から魔道具を作り上げるなんて、無理な話だった。元々ああいう凝った道具は、近代魔法家の領分で、古代魔法使いにはない新しい視点から生まれたものだ。今、都会で使われている『コード』もそれだ。魔道具は余った魔力を他の人が利用できるという利点がある。本を読めばイオリーも作れるだろうが時間がかかるし、仮に作ったとしても身体は大人に成長している。
どの程度、魔力を移し替えられるか。きっと使っている途中に壊れてしまうだろう。
(あぁ、ダメだ、もう、頭が回らない)
イオリーは頭の上に手の甲を乗せ、荒い息を繰り返し吐き出した。けれど、何度息を吐き出したところで、呼吸に含まれる魔力だけでは体の熱は静まらない。
「イオリー。昼間のこと、もう忘れたのか」
それは、イオリーが聞いたことのないオルフェの声だった。艶やかな色を纏った声。幼かったあの頃には決して出すことのなかった音域。そういえば、オルフェは声変わりしている。だから不思議と色っぽく聞こえるのだろう。
「え……なに、昼間……」
魔力を満たし、満たされる関係は、信頼関係がないと成立しない。
イオリーは顔から手をずらし、オルフェの顔を見つめる。オルフェは、何か哀れな人間を見るような目でイオリーを見下ろしていた。
(なんだよ、一番大切なんて、親友だなんて、嘘のくせに)
熱に浮かされた頭で、そんな言葉が浮かんだ。アルメリア家に生まれたオルフェが憎くなった。オルフェに責任なんてないのに。もしも違った家に生まれたら、貴族でなければ。
――俺が、オルフェを満たしてあげるのに。こんな魔力いくらでも、お前に。
暴走する魔力が思考を黒く染めあげていく。自分の力では止められなかった。
こんなふうに優しく世話を焼くオルフェも学校を卒業すれば、イオリーの顔を見なくなる。それが、たまらなく悔しい。この暴力的な独占欲の正体をイオリーは知らない。
大切な親友を他の誰にも渡したくなかった。
「私と君は、いま誓約の魔法で繋がっている。だから、隠しても君のことは何でも分かる」
「……オル、分かるって、なんだよ」
「苦しいのだろう。私は、君のことを、助けたい」
助けるって、どうやって。その方法をオルフェは知っているようだった。他の誰でもない、オルフェになら、何をされても、いい。
親友だから。何をされたっていい。そう思って、オルフェを信じて誓約を結んだ。イオリーは無意識にオルフェに手を伸ばした。
「あぁ……うん。苦しいんだ。オルフェ、ダメだ、体が熱いんだ。魔力が……もう、体にいっぱいになって、助けてよ」
イオリーはオルフェの優しさにつけ込んで甘えた。オルフェが魔力を欲しがっているのなら、自分の方が、あのクラスメイトの女の子よりも、潤沢に与えられる。
そんなことでしかオルフェとの仲を繋ぎ止められない自分が浅ましい人間に思えた。
「君は、いくらでも私を欲しがればいいんだ。私にできることなら、なんでもする」
オルフェの青い瞳は自分と同じくらい熱で潤んでいる。オルフェはイオリーの手を取り指を絡ませる。
室内にベッドの軋む音が響き、オルフェがベッドに上がったのが分かった。
オルフェは心からイオリーの魔力を求めていた。その美しい青の瞳は、ほかの誰でもない、今はイオリーだけを見つめている。
当たり前だ、さっきからイオリーは溢れた魔力を出しっぱなしにしていた。
イオリーと同じくらいオルフェも魔力に酔っているのだろう。
「オル……ねぇ」
未来永劫、自分だけがオルフェの渇きを癒し、お腹いっぱいに満たしてあげられる。
――自分は、オルフェの餌だと思った。
それが嬉しくてたまらなかった。イオリーの首の痕にオルフェの唇が触れる。
「……大切なんだ、君が。誰よりも」
「オル……なんで、何するの」
「何でも、だ……君が望むなら」
イオリーは高熱で節々が痛み、上手く体が動かせない。そんな不自由な身体なのにオルフェに手や唇で優しく触れられると、それだけで、びくびくと反応して喜んでしまう。体の形を確かめるように触れられるたび、止めどなく魔力を放出していた。
首元にあるオルフェの髪に手を差し込むと、その柔らかな手触りが心地よくて夢中になった。たまらなくなって、かき抱くと、そのイオリーの求めに応えるように、オルフェは首の誓約痕を唇で強く吸ってくれる。
「あ、あっ、んんっ……」
誓約の魔法で繋がったせいなのか、あるいは相性がいいからなのか、オルフェはイオリーの苦しさを難なく吸い取っていく。
オルフェの治療行為は、苦しさが消えていくだけじゃない。求めを抑えられないほどの甘やかな快楽だった。
「んんっ、あああっ、気持ちいい、気持ちいい、オル。どうしよう、こんなのダメなのに」
「大丈夫だよ、ダメじゃない。イオリー」
寂しくて、苦しくて。だから、誰にもオルフェを渡したくなかった。
「イオリーの魔力は、甘いね」
生理的な涙をこぼしながら、オルフェの美貌を見つめていた。喘ぎ続け飲み込めなかったイオリーの口元の唾液を、恍惚とした目をして舌で拭う様が淫らだった。
清く美しい高位貴族の彼をこんなにも、はしたなくさせている背徳感に震えた。
この時間だけは、オルフェを自分だけのものにできているのだと思うと、それだけで魔力の暴走が止まっていく。けれど暴走による苦しさは治っても、オルフェに対する欲は溢れ出るばかりだった。
「んっ、オルフェ、あぁ、もっと、苦しいから……」
「あぁ、いいよ。イオリー」
オルフェはイオリーと唇を合わせると、その唇を舌で割り、柔らかなそれを絡め合わせた。こんな過激なキスをイオリーは知らない。唾液をこぼしながらするはしたないキスに興奮は増すばかり、何も知らないのに、もっとオルフェの唇と手が欲しくて必死にしがみついて求めていた。
イオリーに覆いかぶさって口付けるオルフェに、いつの間にか甘えるように身体を擦り付けていた。
「イオリー、こっちも?」
オルフェに耳元で囁かれ、イオリーはこくこくと頷いた。
興奮したイオリーの中心に気づいたオルフェは、イオリーの胸元にあった手を下腹へと滑らせ、薄い下衣の上から何度も触れる。オルフェのしなやかな手が気持ちよくて、勝手に腰が前後に揺れてしまう。
「んっ、んんっ、んんっ、ぁああ……あぁっ」
「気持ちいい? イオリー」
「ッ、ぁ、気持ちいい、いい、から」
快楽を逃すため、オルフェの制服のシャツに額を擦り付ける。オルフェの体からは甘やかな花の匂いがした。弾けそうな熱の猛りを放して欲しいのに、もっと強くして欲しい。そんな相反する感情に心を支配されている。
自分以外、誰にも触れられたことのない熱の膨らみをオルフェは優しく大人に育てていく。気持ちいいのに、同時にその慣れた性技が悔しかった。きっとオルフェは、社交界で引く手数多で、夜のお誘いも多いのだろう。対する自分は、ここ数年、研究に明け暮れていて誰かと深い関係を結んだ経験がなかった。溜まった欲など、自分の手で治したことしかない。 そんな何も知らないイオリーに、オルフェは国賓の女性を扱うかのように優しく触れる。
何故か、その手が触れた名も知らない誰かが羨ましかった。惚けた頭でそんな取り留めないことを考えていると、重ね合わせていたオルフェの体がイオリーから離れていた。その体はイオリーの下腹へと向かい、オルフェの手はイオリーの下衣を下着ごと取り払った。
オルフェにされるまま欲を溢れされたそこは、質量を増し、オルフェに向けてそそり立っていた。イオリーは顔を朱に染め、慌てて隠そうとしたが、オルフェはイオリーの下肢を両手で割るとイオリーの恥ずかしい部分を強引にあらわにする。
体は立派に大人に近づいているのに、下の毛は薄く、そこはまだ、幼さを残しているのが恥ずかしかった。魔力の暴走が落ち着き、次第にはっきりする頭で、自分だけが服と体を乱れさせているのに気づいた。
オルフェは制服をきっちりと着たまま、少しも乱れてなかった。変化といえば、魔力を飲み込んだことによる興奮で赤くなった目元くらいだ。
「イオリー、誰かに、ここを口で許したことは?」
イオリーが下半身を隠そうと手を伸ばしたのを、オルフェは手首を掴んで制する。
「え、ぁ、口? なんで、え?」
「そう、分かった。いい、私が全部する」
艶然と微笑んだオルフェの唇は、躊躇なくイオリーの濡れた先端に口付け、たわんだ皮を唇で剥く。そして張り出したイオリーの敏感な赤い平らにオルフェの舌が触れた。
「あ、何、何それ、知らない、知らないってば、オル、なに、それ」
イオリーは知らない行為に戸惑うばかりだった。枕の上で首を横に振り、髪をパサパサと枕に打ち付ける音が響く。オルフェに舐められるたび、腰がとろけて透明な蜜をこぼし快楽に翻弄される。
「そう、知らないの、それはいいね」
「ひ、あっ、やっ……」
焦るイオリーとは対照的に、オルフェの声は弾んでいた。
「あ、それ、あああっ、ダメ、ぁやぁああ」
過ぎた快楽に戸惑いの嬌声をあげるたび、なぜかオルフェは上機嫌になり唇を弧にする。そして、何度も何度もイオリーの敏感な先っぽを舌でいじめて蜜を舐め取った。けれど何度舐め取られても、そこから涙が止まることはなく、透明は芯を伝いオルフェの手を濡らした。
「あぁ、君が、何も知らなくてよかった。全部私のものにできるから」
「あ、何、なに、ああああっ! ああっ」
オルフェはイオリーの魔力を全て受け止めようとしているのか、イオリーの敏感なところを余すところなく口に含むと、何度もイオリーを未知の快楽へ誘っていく。淫らな水音とイオリーの嬌声だけが部屋に響いていた。
「ぁ、あああ、もう、んんっ、ああああ!」
イオリーはオルフェの艶やかな黒髪に指を絡ませ、体を硬直させると、そのまま一番上までいってしまった。
「ぁ……オル……どうして……こんな」
とぷとぷとイオリーの魔力の源がオルフェに飲み込まれていく。イオリーは、ベッドの上で力無く横たわったまま、その妖艶な青い瞳から目が離せなかった。
「……ごちそうさま、イオリー・オーキッド」
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