猫の旅館

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「中秋の名月どすなァ…」  猫は満月を見上げてそう言った。 「そうだな」 「ダンナ、ほれ」  猫は日本酒と杯をこちらに向けた。  私は杯を持つと、猫は日本酒を注いでくれた。 「あ、ありがとう」 「じゃあ、ダンナも」  猫は日本酒を渡してきた。注いでくれ、ということだろうか。  猫も杯を持ったので、私は猫に日本酒を注いだ。 「じゃあ、それ、乾杯」 「乾杯…」  猫と酒を飲むだなんて、変な話である。  猫はぐびっと酒を飲んだ。 「ぷはあ、月見の酒ほど美味いものはあらへん」  猫は言った。 「酒が好きなのか」 「それはもう、好きどすえ」  杯が空になった猫は、自分で日本酒を注いで、またぐびっと飲んだ。  変な猫だ、そう思った。
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