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「浅井くん、最近顔色悪いけど、大丈夫?」
「大丈夫です……」
薬を飲むのを辞めて1週間、少し体調は悪いけれど、以前ほど悪くは無い。それより、ミナに会えるなら体調不良くらいどうってことない。
「浅井くん、顔が真っ青よ?体調管理も社会人のつとめ。今日は帰りなさい。」
「……分かりました。」
横田さんにそう言われては言い返せない。仕方ないから、今日は帰ろう。
「……ただいま。」
「おかえり。」
「――ミナ!?」
「ミナだよ。」
そこには、顔の包帯を外して俺と瓜二つな顔をした男が立っていた。
「ミナ……ずっと会いたかった!」
俺はミナに抱きつきに行った、が、俺の手はミナをすり抜ける。
「……ミナ?」
「ほんとに……辞めておけばよかったのに。」
「……え?」
「もう、時間だ。」
そう言ってミナは俺の手を取る。今度はすり抜けなかった。
「ミナ……!」
すり抜けなかった喜びで前を見ると、ミナは泣いていた。
「ありがとう。二那。」
手に不思議な感覚が襲ってきた。手元に目をやると、俺とミナの手が重なって、俺の手がミナに取り込まれていた。
そして――俺の体は、透明になっていた。
俺は悟った。ああ、俺はもうここで終わりだ。
最期に、ミナに会えて良かった。いや、ミナに会えたからこうなってしまったのか。
「こちらこそ、ありがとう……ミナ。」
そう言った俺の体も、ミナの体も、そこになかったかのようにパッと消えてしまった。
ミナが作り置きしていた、人参の煮物だけを残して。
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