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「いただきます。」
俺は手を合わせてそう呟く。
それから箸を手に取り人参の煮物をつまんで口に入れた。この料理は、俺が小さい時から母親に教えて貰って作っていたから、ミナも作るのが上手だ。
「……あったかい。」
「ははは。やっぱりまだ味はしないか。」
俺の感想にミナは笑い声をあげる。
ミナは良い奴だ。いや、俺が良い奴だったのか?
とにかく、ミナは俺の体調が回復するようサポートしてくれている。それだけで感謝だ。
食事が終わって、何となくついていたテレビに目を向けた。前から好きだったバラエティ番組だった。
でも、前のような面白さは感じられなかった。
番組の方針が変わったのか、はたまた俺がこんな状態だからか。
少し気分が悪くなった。少し体調も戻ったかと思われたが、自分はまだ全然治っていなかったのだと気づいた。
「コーヒー淹れたよ。飲む?」
「飲む。」
そんな俺にミナは声をかける。
食後はいつも、ミナとコーヒーを飲んでいた。
コーヒーを飲みながら、他愛ない会話を交わしていた。
「早く元気になるといいけどな。」
「……ああ。」
「テレビ、消すか?」
「ああ。」
ミナはきっと俺がテレビを見て気分が悪くなったことに気がついたのだろう。パストって、すごいな。俺の気持ちまでわかるのか。と感心した。
風呂に入るような気力も湧かず、俺はコーヒーを飲み終わったあと寝室に行ってベッドで横になった。
ああ、明日も、何も無い。
俺の幸せな日常は、戻ってこない。
自業自得なのかもしれない。あんな人間を親友だと信頼していた俺が馬鹿だったのかもしれない。
ずっと、空白の毎日を過ごしている。
悔しさと虚しさに苛まれ目を閉じると、俺はそのまま眠りについてしまった。
コンコン、ノック音と同時にミナが俺の寝室に入ってくる。
「なあ、二那、ボードゲームでもしないか?」
「……」
「いや、気分じゃなかったらいいんだ。」
昨日あんなことを考えて寝てしまったから、未だに気分は良くない。
でも、せっかくミナが用意してくれているなら、1回くらいはやろうかな。
「……やる。」
「そうか。良かった。あっちで待ってるからな。」
そんなに広くないアパートで2人暮らし、寝室に2部屋使っているからそんなに広くない。リビングもダイニングも同じだ。
あっち、とはリビングでダイニングな所のことだろう。
俺は重い体を起こしながらそこへと向かう。
起き上がった時にすこし頭痛を感じたが、そこまで酷くは無い。
「二那、起きられたか。良かった。」
「ああ。ボードゲーム、やろうぜ。」
「よっしゃあああ!!!」
ミナが大声をあげる。
最初はあまり乗り気ではなかったが、みるみるうちに戦いは白熱し、1回だけ、と言ったが4回くらいはやった。今のが最終戦。
「高校生の頭脳に負けるとは……」
ミナに負けるというのは、過去の自分に負けるということだ。あまりいい気分では無い。
「でも、二那が楽しんでくれて良かったよ。」
「うん。楽しかった。ありがとな。ミナ。」
空白の毎日だった。そこにミナが来て、俺の生活が変わった。
ミナと居ると、少しだけ毎日が楽しい、かもしれない。
俺は少しずつ元に戻ってきているのかもしれない。
その日はいい気分のまま過ごした。
夕飯のあとも俺の思い出話とか、ミナの話とか、パストの話とかいろいろ話した。
俺は、そんないい気分のまま眠りについた。
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