惹かれあって幻

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――「好きです。付き合ってください。」 「もちろんです。」 大学生、同じ学部だった。 名前は美來(みくる)。最初の授業で隣の席になってから、ずっと気になっていて、いつの間にか好きになっていた。友達から、美來がお前のこと好きだって、と聞いて少し期待しながら告白したら結果は大成功。本当に美來も俺のことが好きだったらしい。 授業が一緒になった時には教えあったり、空きコマは一緒に図書館で時間を潰したり、互いの家に行ったり、デートもいっぱいした。美來のことがどんどん好きになっていった。そして、美來も同じだったと思う。 そんな美來との恋を応援してくれていたのは、高校からの親友の飛奈斗(ひなと)。高校では同じ男子バレー部で飛奈斗がキャプテン、俺が副キャプテンを務めていた。信頼していた。人生で1番の友達だった。親友だった。大学も同じで、美來と付き合う前からいろいろ情報収集をしたりしてくれた。美來と付き合えたのは飛奈斗のおかげかもしれない。 美來と付き合ってかなり時間が経ち、仕事に本腰を入れ始めた時だった。 ――「そろそろ結婚しない?」と。 そう言われた。俺も美來と結婚したいと思っていた。 本当は盛大なプロポーズをしたかったが、先に美來に言われてしまった。それを美來に言うと、美來は笑って「そんなのいいよ。」と。 美來の家に挨拶をしに行った。美來の両親は優しくて、俺のことをすぐに受け入れてくれた。結婚も応援してくれた。 次は俺の家。これが問題だった。 俺はすぐに受け入れられると思っていた。 しかし俺の母親は美來を見るなり顔を顰めた。 何が気に入らなかったのか。 父親は美來の職業が気に入らなかったらしい。別にそこまで言われるような職でもないのに。 そんなこんなで俺の家では美來との結婚は断固反対だった。 けれど、俺はそれでも美來が好きだっだ。結婚したかった。美來もそう思ってくれていると思っていた。 だから俺は両親と縁を切って、美來と婚約した。 美來は俺の事を心配したが、俺は美來のことが大切だったからどうでもよかった。 それは突然だった。 飛奈斗が口にした言葉で、俺の幸せは一瞬にして崩れた。 「俺、実は美來ちゃんと付き合ってたんだ。だから二那には、美來と婚約を解消して、別れて欲しい。」 ――は? 何を言っているんだ、本当にそう思った。 人生で1番耳を疑った。 美來はどう思っているのか、同席していた美來の方を見ると、美來は俯きながらこう言った。 「そういうことだから。ごめん。二那くん。別れよう。」 美來までそう言うのか。俺は絶望した。 愛した女に裏切られた。美來に裏切られた。 親友にも裏切られた。略奪された。 家族とも縁を切った。俺の戻る場所は無い。 なんで俺はこんな目に会わなきゃいけないんだ。 なんで、なんで俺だけ、俺だけがこんな目に。 なんで、なんで、なんで、なんで、 なんで、なんで―― ――「二那!?!」 ベッドから落ちて目が覚めた。酷い悪夢だった。 「二那、大丈夫か!?」 「なんで、なんで、なんでおれだけ、なん――」 「落ち着け!!!!」 ミナはそう叫びながら俺の肩を強く揺すってくる。 俺は過呼吸で上手く話せない。 「おかしい。なんでおれだけ、みくるも、ひなとも、」 「随分魘されてたんだな……ほら、息吸って、吐いて、」 ひゅう、と喉で息が詰まる感じがした。 ゲホゲホと勢いよく咳き込み、ミナに体重を預ける。 「……」 「落ち着いたか?」 ミナが俺の背中をさすってくる。 少しだけ落ち着いた。 最近、よくあんな夢をみる。美來と出会った時の夢とか、飛奈斗の夢とか。 そして――裏切られた光景も、夢に出てくる。 「はー。なんで俺ってこんななんだろう。」 思わずもれた言葉。 なんで、俺って、こんななんだろう。 頼れる人が、過去の自分しかいないなんて、なんて虚しい人間なんだろう。今頃、美來と飛奈斗は結婚してるのかな。何してるんだろう。いや、知りたくは無いけど。 「二那は、頑張ってるから大丈夫。」 ミナはそう慰めてくれる。あくまで俺の発しそうな言葉しか言わないあたりが、俺の想像を超えてこないあたりが、俺のパストって感じで面白い。 「……なんで生まれてきちゃったんだろう。」 「……」 俺がそう言うとミナは黙る。高校生の俺ではこんな質問に対するいい答えなんて思いつかないから、当たり前のことだ。 「明日は……美術館でも行くか?」 「急だな。」 「いや、俺はそういうの好きだろ。二那も好きかと思って。」 確かに、俺は絵画とか音楽とか、そういう芸術的なものが好きだ。高校でバレー部に入るか、美術部に入るか迷ったくらいには。 「……行くよ。」 「じゃあ、もう1回寝ないとな。」 ミナは少し笑って、包帯でグルグル巻きの顔を俺に向ける。 また魘されたくはないけれど、美術館には少し行きたいし、寝るか。 俺が眠りにつくまで、ミナはそばに居てくれた。 本当に、よくできた男だ。
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